参考 : 医道審議会の強化と富士見産婦人科病院事件
富士見産婦人科病院事件
1980 年、埼玉県所沢市の芙蓉会富士見産婦人科病院の北野早苗理事長、北野千賀子院長が逮捕されました。無資格者による超音波検査という医師法違反、保健婦助産婦看護婦法 ( 当時 ) 違反の容疑とともに、不要な手術を行ったという傷害容疑がかけられました。1988 年、浦和地裁にて理事長、院長に医師法、保健婦助産婦看護婦法 ( 当時 ) 違反により執行猶予付き有罪判決が下されました。
しかし、傷害容疑については不起訴となりました。
2000 年、厚生省医道審議会で処分しないという決定が下されました。
2004 年、民事訴訟は最高裁の上告棄却によって、元理事長、院長の敗訴が確定しました。
ところが、2006 年、厚生労働省医道審議会は、民事訴訟で敗訴した事例も処分の対象にするように、処分制度を強化し、その第一号として富士見産婦人科病院の事例が挙げられました。北野千賀子元院長は医師免許取り消し処分となりました。
富士見産婦人科病院事件の真相は私には分かりません。裁判が真実を明らかにする場ではないことは理解しています。刑事裁判は 8 年、民事裁判は提訴から 23 年かけて決着がつきました。それでも真実は明らかにはなっていないのでしょう。しかし、医道審議会はこの事件をどれだけ調査したのかは分かりませんが、方針変更から 1 年以内で富士見産婦人科病院への行政処分を下しました。しかも元院長には医師免許取り消しという最も重い行政処分が下されました。
厚生労働省が唱える医師への行政処分の強化、迅速化は、どれだけ医師が納得できるものか、不安なものです。
参考資料
以下に、参考資料を挙げておきます。
富士見産婦人科病院・乱診事件
-経緯-
昭和55年9月11日、埼玉県警は埼玉県所沢市の「芙蓉会・富士見産婦人科病院」で医師の資格が無い同病院の理事長・北野早苗(当時55歳)を医師法違反、保助看法違反の容疑で逮捕した。北野は、超音波診断装置を操作して健康な妊婦を「子宮ガン、子宮筋腫」などの病名をあげ「あなたの卵巣は腐りかけている。ただちに手術しなければ危ない」などと診断して1回の手術で140万円前後の報酬を得ていた。
手術そのものは、北野の妻で同病院の院長・千賀子ら5人の医師が執刀していたが、左右の卵巣を一度に切除するなど一般の病院では考えられない手術をおこなった。しかも、富士見病院は分娩手術以外の手術が2年間で1152件と同規模の他病院と比較しても異常に多い乱診・乱療であった。この5人の医師は北野の行為を黙認、従っていたことも判明した。この結果、多数の何ら問題の無い健康な女性が二度と子供が産めない体にされた。
この乱診が発覚したのは、妊婦患者が北野の診察により「子宮ガン」を宣告された後、他病院で診察を受けた。ところが、その病院ではまったく問題が無いことを医師から告げられた。このような告発が警察に相次ぎ、内偵の結果北野の無資格診療と不要手術が発覚したのだった。
-豪華な病院施設と賄賂攻勢-
富士見病院では、診察に来る患者を次々に入院させ手術をおこなった。この結果、病院の資金は潤沢で病院内に美容室やアスレチック室、ラウンジなどの施設をつくり一流ホテルを思わせる構えであった。このため、埼玉県内はもとより近県からも多数の妊婦が診察に来るなど繁盛していた。更に北野は、当時の斎藤邦吉厚生大臣に1000万円、大物政治家に5000万円など政治献金をばら撒いた。その結果、斎藤は厚生大臣を引責辞任した。
-刑事と民事-
昭和63年1月29日、浦和地裁は北野元理事長、千賀子元院長に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。が、傷害罪に関しては「利用目的なくして手術を行ったという証拠は無かった」などの理由から不起訴処分とした。
民事訴訟では、昭和56年に元患者の女性ら63人が「でたらめな診断で正常な子宮などを摘出された」として約14億円の賠償を求める訴訟を起こした。平成11年6月、東京地裁は北野元理事長、千賀子元院長ら7人に賠償を命じた。その結果、北野元理事長と千賀子元院長は控訴を断念、もう1人の医師は1億5000万円の支払いで和解が成立。残る4人(青井保男、堀八重子、楢林重樹、佐々木京子)の医師が控訴した。
平成16年7月13日、最高裁は4人の医師の上告を棄却し元理事長夫妻らと合わせて5億1400万円の支払いを命じた。提訴から23年を経て決着した。平成17年3月2日厚生労働省の医道審議会は千賀子元院長の医師免許取り消しと元勤務医ら3人を2年から6ヶ月間の医業停止の行政処分を決定した。
特別寄稿 捏造された「富士見産婦人科病院事件」の顛末
金儲けの為に健全な女性の子宮を摘出・・・とのショッキングな報道で日本中を震撼させた富士見産婦人科医病院事件が起こったのは21年前のこと。これを機に、日本の医療は『乱診乱療』、つまり患者のことを顧みず、医者は金儲けの為に医療を行っているとのレッテルが貼られた。この忌まわしい出来事の発端となった同事件について読者はどういう印象をお持ちだろうか? 「この事件は全くのデッチ上げ事件だった」との視点から、神津先生がこの事件を解説したのが以下のレポート。(編集部)
●理事長と医師6人すべてが不起訴となった
「富士見産婦人科病院事件は、まったくデタラメな、デッチ上げ事件だった」といったら、「エッ」と驚く人の方が多いだろうと思う。・・・こういう書き出しで、1989年(平成元年)の東京内科医会会誌新年号に、当時会長をしていた私が書いた「巻頭言」を、まだ覚えていて下さる方があるだろうか。これを摘記すると、次のように続いていく。
「富士見産婦人科病院事件というのは、会員の何方も良くご記憶のように、昭和55年(1980年)9月12日、A新聞が社会面トップに『健康なのに開腹手術』という大見出しで『無免許経営者が診断、次々と子宮など摘出さす』、『でたらめ診療、被害者数百人に及び、恨み残して自殺も』などというセンセーショナルな内容を記事にしたことから始まった事件で、マスコミ各社が一斉にこれに飛び付き、以来数ヶ月にわたり日本の医療は『乱診乱療』の名で袋叩きに会い、とくに開業医は、金儲けの為には健康な女性の子宮までも摘出するような人種と思われかねない報道が続いた、まことにショッキングな事件であった。」
「ところが、この報道は、間違いであったことが明らかになったのである。すでに昭和58年(1983年)8月20日の朝刊各紙は、富士見産婦人科病院事件について、『傷害は全員不起訴、富士見病院の捜査終了』(M新聞)、『浦和地検、傷害立証できず幕』(A新聞)と3年間にわたる捜査の結果、この事件は成立せず、起訴できなかったことを報じている。被害者と言われた35人の患者から、健康な子宮を摘出されたといって、医事紛争ではなく傷害事件で告訴された同病院元理事長と医師6人の計7人は、全員が起訴されなかったのである。」
●この事件を機に厚生省の低医療費政策が強化
「浦和地検は、この事件の傷害罪適用に当たって、1.治療目的が正当だったのかどうか、2.手術が医療水準から見て妥当だったのかどうか、3.患者の同意、承諾を得て行われたかどうか、の3点を軸に捜査を進めた。その結果、『利用目的なくして手術を行ったという証拠は無かった』、『病変が全く無く、そのことを医師が承知しながら手術した、とは証拠上断定できない』、『医師から病変を知らされた上で患者は手術に同意した』と判断した。つまり、告訴した35人の患者の訴えは、すべて却下された訳である。」
「昭和55年(1980年)からもう8年以上にわたって強引に推し進められてきた厚生行政の低医療費政策が、こういう大誤報(ラジオ日本)の波に乗っていたということを、会員諸先生はどうお考えになるだろうか。厚生省の医療費適正化推進対策本部というのは、いったい何だったのか。平成元年(1989年)という新時代の始まりに当たり、虚報に振り回されて幕を閉じた昭和末期の医療のあり方には、厳しい自己批判を加え、自虐意識のようなものの中で低医療費政策に盲従してきた状態からはまず脱却することが、国民医療を直接担当するわれわれ臨床内科医の責務ではないかと思うのである。、」
これは、1989年(平成元年)の「年頭所感」であるから、今から13年前のことだ。その前の年、1988年9月26日、この「虚報」について「傷害で書類送検との虚偽の報道で名誉を著しく毀損された」として、富士見産婦人科病院・北野早苗理事長からS新聞に損害賠償を求めた訴訟の判決があり、S新聞は「敗訴」となって賠償金120万円の支払いが命ぜられ、この問題に一段落が付いた時期であった。
●マスコミの報道姿勢に世論誘導の意図を見る
いま、西暦2001年。21世紀の年頭に当たり、昨年11月14日、厚生省の医道審議会で被害者同盟が富士見産婦人科病院の医師に処分を求めた提訴に対して、「処分しない」という決定が正式に出てケリがついたのを機に、私はここでもう一度、この20世紀後半最大の悪夢、「幻の富士見産婦人科病院事件」について改めて総括をしておいた方が良いと考えるのであるが、どうであろうか。
そこで、少し振り返ってみると、まずこのS新聞事件は、S新聞が東京高裁に控訴したが、1990年1月15日、一審通り再び有罪となり、さらに最高裁に控訴したが最高裁は一、二審の判決を支持し、1993年7月1日、上告を棄却する判決を下し、S新聞が賠償金120万円を支払って、この問題は完全に決着した。
しかしこの、マスコミのデッチ上げによる虚偽の報道が最高裁で有罪と判決されたことについては、各新聞とも5面か7面の下の方、いわゆる隠し記事の部分にほんの20行か30行のベタ記事で申し訳程度に載せただけだから、富士見産婦人科病院事件の虚報が最高裁で断罪されてことなど、国民の大部分は知る筈がない。勿論、読者の先生方も同じことであろう。
ところがそれより半年前、1988年1月29日、富士見産婦人科病院の理事長、院長が医師法違反、保助看法違反で有罪、執行猶予の判決が出た時は、各紙とも一面、社会面などのトップ記事で「富士見産婦人科病院事件、元理事長夫婦に有罪」、「無資格で乱診」、「病院ぐるみの不正指摘」などと派手な記事で大々的に報道している。
理事長の医師法違反は、超音波を医師でない者が行使したという点。院長の保助看法違反は、それを院長が見過ごしていたという点であるが、違法行為が摘発され起訴されれば有罪となったのは当然のことであろう。
しかし、これはあくまでも法令違反である。駐車違反などと同じ形式犯事案をこんなトップ記事にしておきながら、最高裁判決まで出た損害賠償事件をひたすら目につかない隠し記事にしてしまうというマスコミの報道姿勢には、明らかに富士見産婦人科事件に対する意図的な世論誘導の恣意を感ぜざるを得ない。
●北野夫妻はともに健在。現在も所沢市で診療活動
今、国民がみな、読者の先生方も含めて、未だに「富士見産婦人科病院というのは、ひどい病院だった」という認識のままでいるのは、この法令違反の時のマスコミ報道が派手なトップ記事で一斉に「富士見産婦人科病医事件、元理事長夫婦に有罪」というタイトルを躍らせたあの鮮烈な印象が、まだ脳裏に焼き付いているからである。この記事のおかげで、富士見産婦人科病院事件そのものが有罪という観念になり、あの病院はもうとっくに潰れてしまったと思っている人も少なくないのではないだろうか。
確かに、1980年9月12日の事件発生後、富士見産婦人科病院は破産し、建物は競売に付され、取り潰されて今は跡形もない。
しかし、富士見産婦人科病院そのものは無くなったが、北野千賀子院長、北野早苗理事長はともに健在で、その後、所沢市小手指町に『チェリイクリニック』、『スコットレディースクリニック』という新しく生まれ変わった2つのクリニックを開設し、活発な診療活動を続けている。
潰れてしまった筈の富士見産婦人科病院が甦って、今も沢山の患者が集まっているのは何故だろうか。このギャップを解明する為にはこの21世紀念頭の私の総括を、もう一度、20年前の富士見産婦人科病院事件の原点にまで遡らせなければならない。
●ビデオ撮影と臓器保存が「動かぬ証拠」となった
この謎を解く鍵は2つある。北野千賀子という院長の類まれなる強靭な個性と研学心。そしてそれを慕う女性患者群の『さくらんぼの会』という支援組織の存在である。
ここでもう一度、1989年の「巻頭言」の一部を引用してみる。「北野千賀子院長は、昭和55年(1980年)11月初めから昭和58年(1983年)4月まで2年6ヶ月の間に、1症例につき警察で3回、検察庁で1回、平均3日ずつ述べ420日間の事情聴取を受け、一例一例について診療の経過を外来から手術まで、診療記録、病理組織、臓器鑑定などについてまで訊問に応じている。その結果、浦和地検の末永次席検事は、『高度な医学知識を要する非常に難しい事件だった。地検としては全精力を集中し捜査に当たってきたが、傷害罪として起訴するに足りる証拠を収集できなかった。収集し得る証拠を収集し尽したとしても、診療目的でない、医師として不相当な手術だったとは立証できなかった』と、昭和58年(1983年)8月20日の記者会見で述べている。」
この記述の通り、北野院長が埼玉県警、検察庁検事の鬼のような長期間の猛訊問に堪えて、真実を貫き通した精神力には凄まじいものがある。そしてその説得力を支えたのが、子宮摘出手術全例の臓器保存と手術全症例のビデオ撮影記録であった。これは症例報告などの学会発表に備える為のものだったが、院長の普段からのこうした学究的活動が、事例解明のキメ手をなす最も重要な「動かぬ証拠」となったのである。
臓器保存やビデオ記録もそうであるが、北野院長の向学心は医療技術の最先端にも及んでいた。20年前の所沢市ではまだ珍しかった超音波診断を外来診療に取り入れ、これをいまのコメディカルがやるような形で理事長に任せ、診断実績をどんどん上げていた。
●北野院長を支えた患者会『さくらんぼの会』の存在
富士見産婦人科病院が開設されたのは1967年8月であるが、北野千賀子院長の産婦人科医としての手腕、実績とその人柄によって受診患者は急速に増えていった。そして、院長の人徳を慕う患者達によって、1970年、富士見病院友の会として『さくらんぼの会』が結成された。『チェリイクリニック』、『スコットレディースクリニック』となってからの今も500名近い会員の団結は固く、院長、理事長の強力な支援組織となっている。
1980年の富士見産婦人科病院事件の時は、或る力によって組織化された被害者同盟の強力な発言力とマスコミの意図的な無視に圧殺されて、病院側への単なる心理的な熱い後ろ盾の役目を果たすに止まっていたが、その存在価値がフルに発揮されたのは、20世紀末もギリギリになって結審した被害者同盟の民事訴訟に対し、損害賠償5億円の東京地裁判決が出てからである。
被害者同盟は、富士見産婦人科病院事件のマスコミ騒動の最中、1980年9月20日に、保健所長から市民会館で説明会を開くという連絡を受けて集まった元患者500人ほどが、住所氏名を書かされ、その中220人ほどがその場で結成した組織であるが、左翼系指導者の「一人確実に3,000万円の損害賠償が得られるから」という誘いに乗った62名が原告となって起こしたのが、この損害賠償事件であった。
1981年から1999年まで19年近く掛かったこの民事裁判では、既に20年も前の刑事事件で検察側が起訴することさえできなかった件の審理に当たって、手術のビデオテープも摘出臓器も証拠物は何一つ出されず、裁判所に提出されたカルテと被害者同盟の訴えだけで判決が下されている。
1999年7月1日、19年間裁判所は一体何をしていたのだろうか、と司法行政の所業を問いたくなるようなこの判決に対して、マスコミは今度も例の如く「富士見産婦人科賠償訴訟、5億円支払い命令」、「”乱診断罪”、長かった19年」などと社会面トップに大見出しで書き立て、被害者同盟は鬼の首でも取ったような勢いで、この判決を盾に8月30日開催の医道審議会に対し、北野院長らの医師免許剥奪処分を行うよう要望書を出した。
●昨年11月、医道審議会で「処分なし」の最終決定
19年も掛かった民事訴訟のこの判決は、長年にわたるマスコミの異常報道が裁判官の頭まで洗脳して、こんなにも証拠なしの感情的な判決が行われたものと思うより仕方がないが、訴えられた病院側は直ちに控訴したし、『さくらんぼの会』の人達は、8月30日、厚生省医務局長に宛てて事件の真相と患者達の真情を切々と綴った「陳情書」を提出した。
この陳情書には嘆願者として997名の署名簿が添えられたが、わずか10日足らずの短時日で、住所氏名に捺印まで押した署名が約1,000人も集まったということは、北野院長の窮状を救おうという患者達、女性パワーの熱意が如何に強かったかを物語るもので、院長の医師としての権威と人徳の深さを示す証拠でもあった。
これを受理した医道審議会は、当日の審議を見送った。10月25日の医道審議会でも、審議の対象となるか否かが討議されたが継続審議となり、翌2000年4月12日の医道審議会も、Y新聞が社会面トップに「被害者も怒りと絶望」、「意見の一致みず、厚生省、新たな処分行わぬ公算大」という被害者寄りのタイトルで報じた通り、医道審議会の判断はまた見送られた。
こうして3回の医道審議会を経た後、昨年11月14日、最後の医道審議会は被害者同盟の訴えを最終的に退け、「検察庁は傷害事件を立件しておらず、厚生省も犯罪を認定できるだけの調査ができなかった」という結論を発表して、北野千鶴子院長ら医師について「処分しない」ことを正式に決定した。
20世紀末ギリギリで決着したこの結論をお伝えして、21世紀初頭における私の総括は終わる訳であるが、1989年(平成元年)と西暦2001年と2つの総括を比べてみて、そのギャップと経過の語る意味を、読者の先生方はどうお考えになるだろうか。20世紀の終末まで、20年も日本の社会を眩惑してきたこの富士見産婦人科病院事件が、まったくのデタラメのデッチ上げ事件だったということをお判りになって頂けたであろうか。
そしてここで、あのひどい魔女狩りのような度重なるマスコミの報道にも拘わらず、富士見産婦人科病院はいま現実に超現代的な2つのクリニックに変身して、多くの産婦人科患者達の医療拠点となって栄えていることも改めて銘記して頂きたいのである。
●20世紀末の悪夢は忘れ、新世紀の国民医療構築に邁進
それにしても、富士見産婦人科病院事件というのは不幸な出来事だった。1956年の神武景気から始まって、岩戸景気、いさなぎ景気と続いた好況に乗って、宿願の医療国営に取り掛かろうとしていた厚生省が、1961年、1971年と2度も総辞退を起こした医師会の反撃に阻まれて困りきったところへ、1973年の石油ショックが起こった。もう医療国営どころではなくなって、厚生行政の方向を低医療費政策に切り換えざるを得なくなったところへ、救いの神として起こったのがこの事件であった。
世の不況を余所に悠々としている医者が、病気でもない女性の子宮までとって金儲けをしているというのだから、社会は憤激し、厚生省も得たりとばかり医療費適正化推進対策本部まで設けて、医療費の押さえ込みに掛かった。
それに、医者ともあろうものが、というこの意外性と、普段からの羨望とやっかみに変えた大衆への迎合性をバネにするマスコミの商業報道が、大々的な「医療叩き」作戦を開始したのがこの事件の始まりだった。
時代背景もまさに20世紀の世紀末。2度の世界大戦と74年間にわたる共産主義の幻想に撹乱され続けた世界の中で、特に日本の敗戦後半世紀は、アメリカの占領政策の影響を受け骨の髄まで改変され、世紀末には日本の魂を失ったまるで異質な日本人達が巷に横行する社会となってしまった。
富士見産婦人科病院事件も、結局はこういう堕落した20世紀末の日本を象徴する出来事であって、左翼かぶれとマスコミの商業報道に、浅はかな大衆が跋扈を許した結果、デッチ上げられてしまった、典型的な不祥事件だったということができる。
もう過去のことだと思って忘れていたという先生方は、ここでもう一度、富士見産婦人科病院事件の経緯と帰結の現実を改めて認識し直して頂きたい。そしてまた、平成元年の「年頭所感」で訴えた通り、この事件に惑わされて、未だいくらかでもいわれ無き自虐意識のようなものを持つ方があるとすれば、それはこの際もうサラリと捨て、これから始まる21世紀の国民医療に向けて、当の責任者としての自覚と使命感を、ぜひ新たにして頂きたいと願うものである。
尚、この事件の詳細は今年4月20日に東京経済(TEL:03-3237-7171)から発刊された『捏造「富士見産婦人科事件」』に明らかである。これは同病院の理事長であった北野早苗氏(現チェリイクリニック、スコットレディースクリニック会長)の直筆によるもので、私がここで十分に記すことの出来なかった事件の全容が書かれている。
1944年東北大学医学部卒業、’50年青森県浪岡病院院長、’64年日本寮歌振興会委員長、’68年旧制高等学校懇話会代表、’77年世田谷区医師会会長、’79年東京都医師会理事、’82年日本医師会常任理事、’84年東京都内科医会会長、’89年日本臨床内科医会会長、同年東京都各科医会協議会会長、’97年日本の高等教育を考える会専務理事、’99年櫻医会会長、同年日本臨床内科医会顧問。
旧富士見産婦人科病院の医師の行政処分等について
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/s0302-6a.html
平成17年3月2日
医道審議会医道分科会
1.はじめに
本日、当分科会において、厚生労働大臣からの諮問を受け、旧富士見産婦人科病院の医師の行政処分について審議し、答申を行った。
本事案は、刑事責任を問われなかった医療行為に係る医師の行政処分について審議した最初の事案であり、様々な論点があったことを踏まえ、本事案に係る当分科会の考え方をまとめたものである。
なお、これまでの経緯、諮問の内容等については、別紙の通りである。
2.答申を行うに当たっての考え方
(1)審議に当たっては、医療に対する国民の信頼を確保し、適切な医療が提供されることを期するという行政処分の趣旨を踏まえ、諮問された医師が適切な医療を行っていたかどうかという観点から検討を行った。
(2)諮問は、現存する資料を基に、事実確認が可能と考えられるものについて行われたが、諮問された医師の医療行為は、医師等の資格のない者による検査の結果を基に、慎重な検討なく、子宮、卵巣という重要な臓器についての摘出手術が行われたこと等が認定でき、医事に関する不正があったというべきである。
(3)良質かつ適切な医療を行うという医師に期待される役割や、本事件を契機に我が国の医療に対する信頼が大きく失われたことを踏まえれば、このような医療行為を行った医師に対しては、厳重な処分を行うべきものである。
(4)他方、諮問された医師については、以下の点が認められた。
(1) 不適切な医療行為への関与の程度は、医師によって異なること
(2) 傷害罪については不起訴とされていること
(3) 医師の中には、自宅の競売等により損害の一部を賠償した医師や、他院に就職後も本事案により転職を余儀なくされた医師もいること
(5)また、答申に当たっては、以下の事情についても議論を行った。
(1) 諮問された事案の発生から既に20年以上経過していること。現在すでに医業を実施していない医師がいるとともに、現時点でこれらの医師により本事案と同様の医療行為が行われることは考え難い。他方、医師法上の行政処分については時効等の規定はない。
(2) 平成11年の民事裁判の第一審判決後、控訴しなかった医師について、当時、旧厚生省が医道審議会に諮問しないとした経緯があるが、その後他の医師により最高裁判所まで争われ民事判決が確定したという事情の変化もある。
3.答申の内容
当分科会においては、以上のような考え方に基づき、医師免許制度への信頼を確保し、適切な医療の提供を期するという行政処分の趣旨を踏まえ、各医師の責任の程度や関与の内容等も勘案し、次の通りの行政処分が相当との結論に至ったものである。
医師 免許取消 1名
医師 医業停止2年 2名
医師 医業停止6月 1名
医師 戒告 1名
4.今後の対応
今後の行政処分に当たっては、今回の調査や議論の経験を活かし、適切に実施していくことが必要である。
そのためには、任意の事情聴取のみでは調査等に一定の限界があると考えられ、厚生労働省に報告聴取の権限を付与することについて検討されるべきである。また、迅速かつ適切に行政処分等を行っていく重要性・必要性を踏まえれば、そのための組織体制の充実についても検討されるべきである。
他方、刑事判決によることなく行政処分を行うには、明確な事実認定を独自に行う必要があるなど、一定の制約があることにも留意が必要である。特に本件においても、事案の発生から20年以上が経過し、事実確認を行うための調査に困難があったことを踏まえると、原則として事案の発生後一定期間(診療録の保存期間を踏まえると5年)以内のものを対象としていくことが適当と考えられる。
以上のとおり、適切な行政処分を行うとともに、現在検討されている行政処分を受けた医師に対する再教育を行うこと等により、引き続き、医師の資質の向上に努めていくべきである。
これまでの経緯・諮問の内容等
(1)本事案は、旧芙蓉会富士見産婦人科病院において、昭和49年から55年の間に、医師等の資格のない同病院の理事長の検査、診断等に基づき、同病院の院長及び医師5名(うち1名は既に死亡)が、手術の適応が認められないのに患者の子宮、卵巣の摘出を行ったなどとして、元患者らが損害賠償を求め、昨年7月に医師側敗訴の民事判決が最高裁判所で確定しているものである。
刑事事件としては、平成2年、院長について非資格者に診療の補助行為を行わせたとして保健婦助産婦看護婦法(当時)違反の刑事罰が確定しているが、院長及び各医師は傷害罪について不起訴とされた。
行政においては、昭和56年、院長について保健婦助産婦看護婦法違反として医業停止6月の行政処分が行われたが、院長及び各医師の医療行為を理由とした行政処分はこれまで行われていない。
(2)平成16年7月の民事判決の確定後、同月の医道審議会医道分科会において、民事判決の内容や論点の整理を行うべきであるとの意見が出され、同年12月の医道分科会において、民事判決の内容等を基に議論した結果、「処分の対象となり得るので、更に調査を行うことが適当」との結論となった。
その後、関係資料や各医師に対する任意聴取等の調査、行政手続法に基づく聴聞手続が行われ、本日、厚生労働大臣から医道審議会に諮問が行われた。
(3)事判決においては、計60事例について損害賠償請求が認められているが、諮問については、そのうち9事例を基に行われた。その理由として、「(1)民事判決の判決文のみからではなく、診療録等の原資料から事実が確認できるもの、及び(2)医師等の資格のない者による検査の結果を基に慎重な検討なく手術が行われたものや、挙児を希望しているにもかかわらず慎重な検討なく子宮の摘出手術が行われたものなど、明らかに不適切な医療行為であると考えられるもの、を対象とした。また、民事判決では、種々の状況から同病院に不適切な診療システムが存在したとしているが、明確に事実認定できる個々の事例を対象とした。また、事実認定は民事裁判に提出された資料など現存する資料を基に事実が確認できるものについて行った(刑事事件の捜査の際に用いられた資料については既に保存年限を過ぎており既に廃棄されている)。」旨の説明があった。
明確な事実認定に基づいて行政処分を行うことが必要であるとの考えから、この諮問を基に審議が行われた。(このことは、諮問の対象とならなかった事例等に対する裁判所の判断を否定するということではない。)
(4)なお、審議に当たっては、同病院の元患者からの厳重な行政処分を求めるとの意見についても、紹介がなされた。
富士見産婦人科病院元院長の申し立て却下
2005年4月27日 読売新聞
不要な手術で患者の子宮などを摘出したとして医師免許取り消しの行政処分を受けた富士見産婦人科病院(埼玉県所沢市、閉鎖)の北野千賀子元院長(79)が、処分の執行停止を求めていた問題で、東京地裁(鶴岡稔彦裁判長)は26日、北野元院長の申し立てを却下した。
医道審議会関係資料
医師等の行政処分のあり方等に関する検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/12/s1216-5.html
平成17年12月16日
厚生労働省医政局
「医師等の行政処分のあり方等に関する検討会報告書」の公表について
標記について、別添のとおり取りまとめられましたので、お知らせいたします。
参考として、報告書の概要を添付いたします。
○報告書(概要)(PDF:127KB)
○報告書(PDF:281KB)
(照会先)
厚生労働省 医政局 医事課
医師資質向上対策室長 菊岡(内線2513)
室長補佐 藤田(内線4124)
企画調整係長 木曽(内線2568)
(代表)03-5253-1111
医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について
平成14年12月13日に開催された医道審議会医道分科会において、医師及び歯科医師に対する行政処分の審議を行うに当たっての基本的考え方が取りまとめられました。
今後(次回以降)の審議においては、この考え方を基本として、厳正に執り行っていくこととされましたので、お知らせいたします。
(照会先)
厚生労働省医政局医事課
三浦(内線2564)、宇都(内線2576)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1213-6.html
平成14年12月13日
医道審議会医道分科会
医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について
(はじめに)
医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づいて行われるものであり、医師、歯科医師その他の医療の担い手は、医療を受ける者に対し良質かつ適切な医療を行うよう努めるべき責務がある。
また、医師、歯科医師は、医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保することを任務としている。
医師法第7条第2項及び歯科医師法第7条第2項に規定する行政処分については、医師、歯科医師が相対的欠格事由に該当する場合又は医師、歯科医師としての品位を損するような行為があった場合に、医道の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣はその免許を取り消し、又は期間を定めて業務の停止を命ずるものである。
医師、歯科医師免許の取消又は業務の停止の決定については、基本的には、その事案の重大性、医師、歯科医師として求められる倫理上の観点や国民に与える影響等に応じて個別に判断されるべきものであり、かつ、公正に行われなければならない。
また、より公正な規範を確立する要請に基づき、一定の考え方を基本としつつ処分内容を審議することが重要である。
このため、今後、当分科会が行政処分に関する意見を決定するにあたっては、次の「行政処分の考え方」を参考としつつ、医師、歯科医師として求められる品位や適格性、事案の重大性、国民に与える影響等を勘案して審議していくこととする。
この「行政処分の考え方」については、行政処分における処分内容が社会情勢・通念等により変化しうるべきものであると考えるため、必要に応じて、当分科会の議論を経ながら見直しを図っていくものとする。
なお、行政処分は、医師、歯科医師の職業倫理、医の倫理、医道の昂揚の一翼を担うものでもあり、国民の健康な生活の確保を図っていくためにも厳正なる対処が必要と考えている。
国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとし、具体的な運用方法やその改善方策について、今後早急に検討を加えることとする。
行政処分の考え方
(基本的考え方)
医師、歯科医師の行政処分は、公正、公平に行われなければならないことから、処分対象となるに至った行為の事実、経緯、過ちの軽重等を正確に判断する必要がある。そのため、処分内容の決定にあたっては、司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本とし、その上で、医師、歯科医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断することとする。
医師、歯科医師に求められる職業倫理に反する行為については、基本的には、以下のように考える。
(1) まず、医療提供上中心的な立場を担うべきことを期待される医師、歯科医師が、その業務を行うに当たって当然に負うべき義務を果たしていないことに起因する行為については、国民の医療に対する信用を失墜するものであり、厳正な対処が求められる。その義務には、応招義務や診療録に真実を記載する義務など、医師、歯科医師の職業倫理として遵守することが当然に求められている義務を含む。
(2) 次に、医師や歯科医師が、医療を提供する機会を利用したり、医師、歯科医師としての身分を利用して行った行為についても、同様の考え方から処分の対象となる。
(3) また、医師、歯科医師は、患者の生命・身体を直接預かる資格であることから、業務以外の場面においても、他人の生命・身体を軽んずる行為をした場合には、厳正な処分の対象となる。
(4) さらに、我が国において医業、歯科医業が非営利の事業と位置付けられていることにかんがみ、医業、歯科医業を行うに当たり自己の利潤を不正に追求する行為をなした場合については、厳正な処分の対象となるものである。また、医師、歯科医師の免許は、非営利原則に基づいて提供されるべき医療を担い得る者として与えられるものであることから、経済的利益を求めて不正行為が行われたときには、業務との直接の関係を有しない場合であっても、当然に処分の対象となるものである。
(事案別考え方)
1) 医師法、歯科医師法違反(無資格医業、無資格歯科医業の共犯、無診察治療等)
医療は国民の健康に直結する極めて重要なものであることから、医師法、歯科医師法において、医師、歯科医師の資格・業務を定め、医師、歯科医師以外の者が医業、歯科医業を行うことを禁止し、その罰則規定は、国民保健に及ぼす危険性の大きさを考慮して量刑が規定されているところである。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが国民の健康な生活を確保する任務を負うべき医師、歯科医師自らが、医師法又は歯科医師法に違反する行為は、その責務を怠った犯罪として、重い処分とする。
2) 保健師助産師看護師法等その他の身分法違反(無資格者の関係業務の共犯等)
医療関係職種の身分法は、医師、歯科医師の補助者として医療に従事する者の資格・業務について規定した法律である。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、医療において指導的な立場にある医師、歯科医師自らが、医療に関する基本的な法令に違反する行為は、医師、歯科医師が当然に果たすべき義務を怠った犯罪として、医師法、歯科医師法違反と同様に、重い処分とする。
3) 薬事法違反(医薬品の無許可販売又はその共犯等)
薬事法は、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保に必要な措置等を講じることにより、保健衛生の向上を図ることを目的としている。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師自らが、同法令に違反することは、基本的倫理を遵守せず、国民の健康を危険にさらす行為であることから、重い処分とする。
4) 麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反(麻薬、向精神薬、覚せい剤及び大麻の不法譲渡、不法譲受、不法所持、自己施用等)
麻薬、覚醒剤等に関する犯罪に対する司法処分は、一般的には懲役刑となる場合が多く、その量刑は、不法譲渡した場合や不法所持した麻薬等の量、施用期間の長さ等を勘案して決定され、累犯者については、更に重い処分となっている。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師として、麻薬等の薬効の知識を有し、その害の大きさを十分認識しているにも関わらず、自ら違反したということに対しては、重い処分とする。
5) 殺人及び傷害(殺人、殺人未遂、傷害(致死)、暴行等)
本来、人の命や身体の安全を守るべき立場にある医師、歯科医師が、殺人や傷害の罪を犯した場合には厳正な処分をすべきと考えるが、個々の事案では、その様態や原因が様々であることから、それらを考慮する必要がある。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、殺人、傷害致死といった悪質な事案は当然に重い処分とし、その他の暴行、傷害等は、医師、歯科医師としての立場や知識を利用した事案かどうか、事犯に及んだ情状などを考慮して判断する。
6) 業務上過失致死(致傷)
(1) 交通事犯(業務上過失致死、業務上過失傷害、道路交通法違反等)
自動車等による業務上過失致死(傷害)等については、医師、歯科医師に限らず不慮に犯し得る行為であり、また、医師、歯科医師としての業務と直接の関連性はなく、その品位を損する程度も低いことから、基本的には戒告等の取り扱いとする。
ただし、救護義務を怠ったひき逃げ等の悪質な事案については、行政処分の対象とし、行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、人の命や身体の安全を守るべき立場にある医師、歯科医師としての倫理が欠けていると判断される場合には、重めの処分とする。
(2) 医療過誤(業務上過失致死、業務上過失傷害等)
人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する医師、歯科医師は、その業務の性質に照し、危険防止の為に医師、歯科医師として要求される最善の注意義務を尽くすべきものであり、その義務を怠った時は医療過誤となる。
司法処分においては、当然、医師としての過失の度合い及び結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、医師、歯科医師として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重めの処分とする。
なお、病院の管理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して、処分の程度を判断する。
7) 猥せつ行為(強制猥せつ、売春防止法違反、児童福祉法違反、青少年育成条例違反等)
国民の健康な生活を確保する任務を負う医師、歯科医師は、倫理上も相応なものが求められるものであり、猥せつ行為は、医師、歯科医師としての社会的信用を失墜させる行為であり、また、人権を軽んじ他人の身体を軽視した行為である。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、特に、診療の機会に医師、歯科医師としての立場を利用した猥せつ行為などは、国民の信頼を裏切る悪質な行為であり、重い処分とする。
8) 贈収賄(収賄罪、贈賄罪等)
贈収賄は、医師、歯科医師としての業務に直接関わる事犯ではないが、医師、歯科医師としての品位を損ない、信頼感を喪失せしめることから、行政処分に付することとし、行政処分の程度は、基本的には、司法処分の量刑などを参考に決定する。
なお、特に医師としての地位や立場を利用した事犯など悪質と認められる事案は、重めの処分とする。
9) 詐欺・窃盗(詐欺罪、詐欺幇助、同行使等)
詐欺・窃盗は、医師、歯科医師としての業務に直接関わる事犯ではないが、医師、歯科医師としての品位を損ない、信頼感を喪失せしめることから、行政処分に付することとし、行政処分の程度は、基本的には、司法処分の量刑などを参考に決定する。
なお、特に、医師、歯科医師としての立場を利用して、虚偽の診断書を作成、交付するなどの方法により詐欺罪に問われるような行為は、業務に関連した犯罪であり、医師、歯科医師の社会的信用を失墜させる悪質な行為であるため、重い処分とする。
10) 文書偽造(虚偽診断書作成、同行使、虚偽有印公文書偽造等)
文書偽造は、医師、歯科医師としての業務に直接関わる事犯ではないが、医師、歯科医師としての品位を損ない、信頼感を喪失せしめることから、行政処分に付することとし、行政処分の程度は、基本的には、司法処分の量刑などを参考に決定する。
なお、特に、虚偽の診断書を作成、交付した場合など医師、歯科医師としての立場を利用した事犯等悪質と認められる事案は、重めの処分とする。
11) 税法違反(所得税法違反、法人税法違反、相続税法違反等)
脱税は、医師、歯科医師としての業務に直接関わる事犯ではないが、医師、歯科医師としての品位を損ない、信頼感を喪失せしめることから、行政処分に付することとし、行政処分の程度は、基本的には、司法処分の量刑などを参考に決定する。
また、医療は、非営利原則に基づいて提供されるべきものであることから、医業、歯科医業に係る脱税は、一般的な倫理はもとより、医師、歯科医師としての職業倫理を欠くものと認められる。このため、診療収入に係る脱税など医業、歯科医業に係る事案は、重めの処分とする。
12) 診療報酬の不正請求(診療報酬不正請求(保険医等登録取消))
診療報酬制度は、医療の提供の対価として受ける報酬であり、我が国の医療保険制度において重要な位置を占めており、これを適正に受領することは、医師、歯科医師に求められる職業倫理においても遵守しなければならない基本的なものである。
診療報酬不正請求は、非営利原則に基づいて提供されるべき医療について、医師、歯科医師としての地位を利用し社会保険制度を欺いて私腹を肥やす行為であることから、診療報酬の不正請求により保険医等の登録の取消処分を受けた医師、歯科医師については、当該健康保険法に基づく行政処分とは別に医師法又は歯科医師法による行政処分を行うこととする。
行政処分の程度は、基本的には不正請求額などに応じて決定するが、当該不正は医師、歯科医師に求められる職業倫理の基本を軽視し、国民の信頼を裏切り、国民の財産を不当に取得しようというものであるため、重い処分とする。


