▼ 2009/12/20(日) 最も古い医療事故刑事裁判 ( 医事法判例百選中 )
昭和 26 年、国立鯖江病院で看護婦が点滴に劇薬を劇薬と気付かずに入れたために患者が死亡した事故。これが、医事法判例百選の中では、最も古い判決です ( 井田良. 3% ヌペルカイン事件. 医事法判例百選. 宇都木伸ほか編. 別冊ジュリスト 183; 160-161: 2006 Sep. ) 。
医事法判例百選と高裁の判決文から、ことのあらましは、
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昭和28年12月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
主文
本件各上告を棄却する。
理由
各弁護人の各上告趣旨は末尾添附別紙記載のとおりである。
弁護人高田利広の論旨中には判例違反、憲法違反を主張するものも、あるけれども、原審は被告人等の行為は被告人等がその社会上の地位に基き継続的に従事する事務であつて人の生命身体に対する危険を伴うもので、しかも適法の業務であると判断したものであることは判文上明であるから、所論判例違反論及び憲法違反論はいずれも前提を欠くものである。弁護人笠島永之助の論旨中にも判例を挙げて居るけれども原資決が該判例に相反する処は何も無いので問題にならない。その他の論旨はいずれも刑訴法四〇五条所定の上告理由に該当しないし、同法四一一条を適用すべき理由もない。(一)被告人Aは厚生技官であるけれども薬剤師としての技官である。薬剤師が製剤した場合、薬事法所定の標示を為すべき義務あること勿論である。これは病院の使用人として為す場合でも変りはない。所論薬剤科業務分担表によるも右義務を免るべき理由を見出し得ない。(二)国立病院の製剤については薬事法の適用がないと解すべき理由はない。(三)看護婦が医師の指示に従つて静脉注射をするに際し過失によつて人を死傷に致した場合には刑法二一一条の責を負わなければならない。その他被告人等の過失並相当因果関係に関する原審の判断は正当である)。
よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
昭和二八年一二月二二日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 井上 登
裁判官 島 保
裁判官 河村 又介
裁判官 小林 俊三
裁判官 本村 善太郎
pdf 86KB BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=30969&hanreiKbn=01
最高裁判例
事件番号 昭和27(あ)3776
事件名 業務上過失致死等被告事件
裁判年月日 昭和28年12月22日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第7巻13号2608頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所 金沢支部
原審事件番号
原審裁判年月日
判示事項
看護婦が薬品を間違えて静脈注射をし患者を死に致した場合と業務上過失致死罪の成否
裁判要旨
看護婦が主治医の処方箋によつて、患者に静脈注射をするに際し、注射液の容器に貼付してある標示紙を確認せず、薬品を間違えて注射をした過失により、これを死に致したときは、業務上過失致死罪が成立する。
参照法条
刑法211条,保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律第203号)5条,保健婦助産婦看護婦法6条,保健婦助産婦看護婦法37条
事件名 薬事法違反竝びに業務上過失致死被告事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/917E13EF6523D0A749256CFA0005B77E.pdf
主文
原判決中被告人a及びbに関する部分を破棄する。
被告人aを懲役拾月に処する。
被告人bを罰金参千円に処する。
但し被告人aの右懲役刑の執行を二年間猶予する。
bにおいて右罰金不完納のときは金弐百円を壱日に換算した期間同人を労役場に留置する。
被告人cの控訴並に検察官の同人に対する控訴はそれぞれ之を棄却する。
弁護人荒谷昇に支給した訴訟費用は被告人a同bの平等負担とする。
理由
被告人等三名に対する検察官の控訴論旨は福井地方検察庁武生支部検察官検事神野栄一提出の昭和二十七年三月六日付控訴趣意書被告人cの弁護人高田利広外二名の控訴論旨は同弁護人ら連名の昭和二十七年三月十日付控訴趣意書並に神保泰一弁護人の右同日付第二控訴趣意書、被告人a及びbの弁護人米沢庄次郎の答弁要旨は同被告人等国選弁護人荒谷昇の昭和二十七年三月十三日付答弁書にそれぞれ記載する通りであるからこれを引用する。
検察官の控訴論旨
第一点について、
原判決は本件公訴事実中被告人aに対する薬事法第三十五条違反の訴因に対し「国立d病院での製剤又は調剤は薬剤科長である厚生技官薬剤師eの指揮監督の下に行われるもので、それに対する一切の責任は同人にあつて被告人aはその部下の一職員としてその指揮命令を受けて忠実に薬剤科の担当職務につき補助行為をする職責があるもので勿論部下として上司に対し職務上に関し意見を具申するのは善良誠実な国家公務員として当然尽すべき責務があるものと云うべきであるが、同病院薬剤科では従来から劇薬の取扱についてはただ其の格納場所を普通薬等と区分するだけでその容器に貼布する標示紙については薬事法に定める区別をせず、それを漫然慣行していたものである。よつて劇薬に薬事法所定の標示紙を貼布しなかつたこと即ち被告人aが昭和二十六年八月一日製剤した劇薬ヌペルカイン溶液の容器コルベンに赤枠赤字で品名と「劇」の字を記載しなかつたことは同病院薬剤科長eの指揮監督の下に従来からの慣行によつたまでのことでその責任は部下職員である被告人aが負うべきものといえず同被告人の過失として責むべきものでない。しかし被告人aとしては薬剤科勤務の一薬剤師たる技官として右悪慣行を改善するため適宜意見を上申しその実現されるよう努力するの誠実さに欠けていた遺憾の点はあるがそれはまた別の問題である」旨論じ右<要旨第一>の訴因につき被告人aの無罪を判定したものである。しかし被告人が国立d病院薬剤科勤務の厚生技官と要旨第一>して科長eの職制上の指揮監督を受けることと、其の薬剤師としての職務執行に当り薬事法の規定を遵守すべき義務を有することとの間に明確な区別が存するのであり上命下従は法の認める範囲内においてのみ許され、法上の義務ないし刑罰法規に反してまで認めらるべきでないことは勿論である。故に右病院薬剤科において右原判示のような薬事法違反の慣行があり、同慣行は薬剤科長eの指揮監督に出たもめとしても被告人は斯る慣行に随従する義務なく却つて薬剤師として薬事法所定の義務を遵守する独自の責務を負担することは極めて明白である。まして原判決がその判断の資料に供している挙示の証拠によるも薬剤科長eが積極的行為をもつて右薬事法違反の所為を指揮した証拠はなく単に同人には同違反の慣行を消極的に黙認した職務懈怠の責任を認めうるに過ぎないのであるから同人の同職務懈怠行為は単に被告人の薬事法違反の具体的行為との間に犯意共通の共犯関係を生ぜしめるかどうかの問題を提出するに止まり、被告人について成立する刑事責任自体には何らの消長を来すものでないことはいよいよ明白であるといわなければならない。もつとも検察官は証人fの原審公廷における供述の一齣を援用して同病院に赤枠赤字の劇薬用標示紙の用意があつたことを主張し被告人のこれが不使用を難詰するけれども、右f証人の証言は必ずしも明確断定的な表現を取るものでないのみならず記録に現われている被告人の供述は凡てこれを否定し他にこれを肯定する資料がないので右被告人らの職務上の不法慣行と照らし合せ考えれば所論のような標示紙の準備はなかつたものと見る外はないのであるが、さればといつて薬事法第三十五条第二項は「劇薬の標示には白地に赤枠、赤字をもつてその品名及「劇」の字を記載しなければならない。」と規定するのみで印刷その他特定型式の用紙を用うることを要求するものではないから被告人において劇薬の標示を為すに当り右規定の趣旨を遵守する意思さえあるならば任意の白地用紙把一挙手の労をもつて右要件を手記し得る筈であつたことが強調されなければならない。故に原判決が前掲記の如く「被告人aとしては薬剤科勤務の技官として右悪慣行を改善する為め適宜意見を上申しその実現されるよう努力するの誠実さに欠けていた遺憾の点はあるがそれはまた別の問題である」と論じ恰も被告人が本件劇薬ヌペルカインに施した標示の違反行為がひとえに上司の指揮監督上の責任に帰属し被告人自身の如何とも為し難い原因に起因するものの如く判示したのはまことに失当上云わなければならない。以上諸般の理由により原審が被告人aに対する薬事法第三十五条違反の訴因につき行つた判断は違法であり同違法は判決の結果に影響を及ぼすから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
論旨第二点について、
本論旨の趣旨は被告人aに対する公訴事実中薬事法第三十九条第一項違反(起訴状並に本論旨は薬事法第三十九条第二号と記載するも上記条項の誤記と認める)の訴因の対象としたのは「aが昭和二十六年八月一日製剤した葡萄糖注射液在中のコルベン容器数本と劇薬である三%ヌペルカイン在中のコルベンを同一減菌器に入れ翌二日まで放置した」事実であるのに原判決は「被告人bが右二種の薬品を滅菌器から取出し同一戸棚に整理した」事実を右訴因の対象事実と即断して、輙く検察官の訴因を排斥したのは審判の請求をした事実について判決をしない違法があるというのである。しかし起訴状の記載を精査するも右薬事法違反の訴因は右前者の事実のみに限定して構成記述せられたものと断定するには多少の不安を存し、或は後者の事実をも包含する趣旨でないかの疑を容れる余地がないでもないのであるから原判決が後者の事実につき所論のような判断を示したことを以て釈明権不行便の非難を免れ難いことは兎も角原審一方の速断のみに帰するのは正当ではない。そして原判決が右薬事法第三十九条違反の訴因排斥に示した判示理由中に「被告人aがその製剤中の劇薬三%ヌペルカイン在中のコルベンと葡萄糖注射液在中のコルベンとを同一滅菌器に入れて滅菌したのを翌二日被告人bがこれを取り出し云々」の事実を認定判示した上結局右訴因の成立を否定したところから推測すれば右原判決の趣意は「被告人aが判示ヌペルカイン在中のコルベンと葡萄糖注射液在中のコルベンとを同一滅菌器に入れた」所為は薬品の滅菌処理であつて貯蔵ではないことを判示したものと認むるを相当とするから原判決は必ずしも所論のように審判の請求を受けた事件について審判をしなかつたものと断言すること<要旨第二>が出来ない。而して原審において取調べた証拠によれば被告人aが判示ヌペルカイン在中コルベンを他のコ要旨第二>ルベンと共に判示滅菌器に入れたのは其の滅菌処理を目的とし貯蔵の目的でないことが明白であり、又、被告人の原審第一回公判調書の供述記載によればこれを翌朝迄滅菌器中に存置したことも亦右処理の効果をより完全にする目的であつたと云うのであるから同被告人が、右ヌペルカイン在中コルベンを他薬のコルベンと共に滅菌器に混入して翌朝まで存置した行為をもつて薬事法第三十九条にいわゆる貯蔵の意思をもつてしたものと断定するに由がないものと云わなければならない。それ故原審の所論訴因に関する判断は結局正当に帰し本論旨は採用することが出来ない。
論旨第三点について、
原判決は本件公訴事実中被告人a並にbに対する業務上過失致死の各訴因においてそれぞれ当該被告人の過失を構成する素材として主張せられた事実を起訴状通りに認定しながら論旨摘録の如き理由の下に右被告人らの過失行為は同行為と被告人cの過失行為との間に介入した看護婦gの行為によつて「補足、是正」(中断)せられたものとし、その後cが内科処置台にあつた三%ヌペルカイン入一〇〇C.C.コルベンを過つて葡萄糖注射液と速断してこれを注射器に詰め同人外一名により患者h、iに注射して死亡せしめた結果と被告人a、b両名の右過失行為との間には相当因果関係がないものと断定し両名の責任を否定したものである。そこで原判決が右相当因果関係否定の根拠と為す看護婦gの行為を其の者の直接の前者である被告人bの行為及び其の者の直接の後者である被告人cの行為とのそれぞれの連関において検討すべく、司法警察員及び検察官の各面前におけるa、g、j、b、cの各供述調書中の記載、原審証人g、同jに対する尋問調書中の供述記<要旨第三>載並に司法警察員の実況見聞調書及び原審検証の結果を総合すると被告人aの
製した三%ヌペルカイ要旨第三>ン液一〇〇C.C.入コルベンを過つて葡萄糖入コルベンと誤信した被告人bがこれを主任医師の処方箋に基き患者に対する葡萄糖注射液一〇〇C.C.を請求する内科病棟看護婦gに交付しgも又これを過つて自己の請求した葡萄糖入コルベンと誤信して病棟に持ち来り、内科病棟処置室の処置台の上に一旦置いて他用の後患者に対する葡萄糖注射の為め処置台のところへ立ち戻り注射器に詰めんとして偶々右容器の品名に気着きその三%ヌペルカインなることを知つたが、内科病棟処置室の処置台にかような劇薬の存することの不審の余り、尚自己が誤つて持参した事実にも想到せず、「ああこんなものどうしたんだろう、レントゲンの気管透視にでも使うのか」と思いそのまま処置台の隅に片寄せたのみで放置した為め、その後に病棟の受持患者に対する葡萄糖注射の準備に来室した被告人cは同所が常に病棟患者に対する注射液充薬の為各看護婦共用の場所であつて処置台上に注射液の容器が置かれる外ヌペルカインなどの劇薬が放置せられた例が絶無であつたところから葡萄糖注射液と同様の容器、標示を具え且つ共に無色透明な同一の外観を有する前記コルベン入りヌペルカイン溶液をその薬品名の記載に注意することも忘れ葡萄糖注射液と速断して其の内約六〇C.C.を二〇C.C..入注射器三本に詰めて外一名の看護婦と共に受持病室に持参して前記入院患者二名に注射して同人等を即時絶命せしめたものである事実が認定せられる。故に右認定事実によれば原判決の判示gの行為は何等同人の前者の過失行為を「補足し是正」するに足るものではなく却つて前者の過失行為の発展の危険を更に過失によつて維持増大せしめたものと見なければならない。
されば、原判決が右gの行為により被告人a及びcの過失が治癒されたものと解しh外一名の致死の結果に対する右両名の責任を輙く否定したのは因果関係の存否に関する重大な事実を誤認したものであると云わなければならない。
よつて更に前掲各証拠にeの司法警察員及検察官に対する供述調書を総合して被告人a並にbについての過失行為の内容と其の後者の過失行為に与えた影響力を検討するに、
一、 a被告人は昭和二十六年八月一日国立d病院勤務の薬剤師として同病院薬剤科製剤室において葡萄糖注射液六・五〇〇C.C.外数種の薬剤と共に同病院耳鼻科に使用する三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を調製したこと。
二、 古ヌペルカインは薬事法上の名称をプチルオキシシンコニン酸ヂエチルエチレンヂアミドと称せられる指定劇薬であるから外見上一見してそれと判明し得るよう他薬と紛れ易い容器を避け又、容器には薬事法の要求に従い赤枠赤字を以て品名及び「劇」の字を記載した標示紙を貼付し且つ他の物と区別して貯蔵又は陳列して他薬との混同誤認を生じないよう注意する業務上の義務があり特に多人数が職務を分担して勤務する病院薬局においては其の義務が一段と厳格に要請されること。
三、 被告人は右業務上の注意義務を怠り其の製剤した前記三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を同時製剤の葡萄糖液と同型の一〇〇入C.C.コルベン容器に詰めで同様の封緘を為し且つ葡萄糖注射液に施した標示と同色同型の標示紙に青インクを以て「三%ヌペルカイン」と記入して容器に貼付し、これを古葡萄糖注射液在中の一〇〇C.C.入コルベン容器十数本外数種の薬品容器と共に滅菌の為め同一の滅菌器に入れて翌二日まで存置したこと。
四、 右ヌペルカインと葡萄糖注射液は共に無色透明で外観上両者を全く識別し得ないものであること。
五、 翌二日午前九時三十分頃薬剤科勤務の事務員で病棟勤務の看護婦に対しその持参する主任医師の処方箋に基き葡萄糖、ザルブロ、リンゲル、ホモスルフアミインの各注射液を引渡す任務を負うていた被告人bが前記滅菌器内にある薬品全部を取出し其の中前記ヌペルカイン入容器の混在に気付かず一〇〇C.C.入コルベインは全部葡萄糖注射液と誤認して所定の製剤室薬品棚に他薬と共に混在せしめたままこれを格納したこと。
六、 被告人は右滅菌器に他薬と混入してヌペルカインを滅菌して置いたことを不注意にも忘却していたため右bの行為を現認し乍ら、bの労を謝するのみで何ら右ヌペルカインが他薬と混在すること特に容器、標紙封緘、及び内容物の外観が全く同一の葡萄糖液と混在することの危険に想到しなかつたこと、従つて又右ヌペルカインを劇薬の保管場所に定められていた製剤室調剤台の側面扉内に蔵置することを怠る過ちを犯したこと。
七、 被告人bは前記六記載の行為の後次いで右ヌペルカインを葡萄糖注射液と誤信したまま他の真正な葡萄糖液数本と共に前記格納場所から取出して薬剤科事務室の自席にある薬品戸棚に持参した上前記説示の経過によりこれを其の後者に交付し順次各人の過失が連帯結合して前記患者を死に致したこと。
以上の事実が明白に認定せられるから被告人a並びにbの右各過失行為と右被害者の致死の結果との間に因果関係の成立を十分に認めることが出来ると云わなければならない。よつて原判決はこの点でも破棄を免れない。論旨は理由がある。
論旨第四点について、
しかし本件諸般の情状に徴して考察すれば被告人cに対し原判決が禁錮十月を量定し刑の執行を猶予したことをもつて所論のように量刑寛大に失するものとは云うことが出来ない。論旨は採用出来ない。
被告人cの弁護人高田利広外二名の控訴趣意書記載論旨
第一点及び第二点について、
所論証人の供述並に厚生省医務局長作成の調査報告書及びその附属の看護婦実習教本抜萃によれば看護婦学校における教育の教程には静脈注射は医師自ら行うべきもので看護婦はこれを補助するに止まるべきものとの考の下に其の技術上の実習指導を行つていないことが認められるから右教育の方針は静脈注射をもつて医師の具える医学的知識と技術によるのでなければ患者の身体に危害を及ぼす虞れのある行為と認める観念に立脚し<要旨第四>ていることは明かである。しかし看護婦は保健婦助産婦看護婦法第五条第六条第三十七条の各規定に徴すれば要旨第四>主治の医師の指示する範囲において其の診療の補助者として、傷病者に対し診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示し及びその他の医師の行うことの出来る行為をすることが許されているものと解すべきであるから、看護婦が医師の指示により静脈注射を為すことは当然その業務上の行為であると云わなければならない。故に原判決が被告人c看護婦が患者h外一名の主治医kの処方箋による指示により右患者等に葡萄糖液の静脈注射を行うため注射器に注射液を充填した上l看護婦と共に各自右患者等の静脈血管に注射器内の液体を注入したことをもつて一連の業務行為と認める趣旨を判示したことは正当でおり原判決には所論のような虚無証拠による事実の認認や事実の誤認、理由不備又は理由齟齬などの違法はない。論旨は理由がない。
第三点について、
原判決を精読すわば所論cの行為の日時及び場所は十分に諒知し得られる。所論は理由がない。
第四点について、
原判決拳示の証拠を検討すれば被告人cの原判示過失行為は十分に之を認定し得るから所論は採るに足らない。
第五点について、
被告人cは入院患者のh外一名の主治医kの指示により其の処方箋に基く葡萄糖注射を為すに当り過つて注射器に三%ヌペルカイン液を詰めl看護婦と共に右患者等に注射して同人らを死に致した事実が同被告人について業務上の過失致死罪を構成することは前記各論旨に対し解説した通りである。所論は医師kが自ら為すべき注射を看護婦に命じてその為すままに放任したことの責任を追求することにのみ急であつて、容器の品名を一見するのみで薬液の誤認を避け得た被告人cの注意義務違反の責任については甚だ寛大に失するうらみがある。殊に右患者の死亡は病院において調剤、診療補助の業務に従事し薬品を取扱う者の普通に遵守すべき注意義務に違反した薬品取扱上の過失責任の複合に基因したもので医師の処方箋上の過失や注射施行者の技術上の過失に因るものでないのであるから、本件に関する限り医師kの責任を負う余地は殆んどないものと云わなければならない。所論は採用することができない。
第六点について、
原判決が、被告人a、同bの責任を否定したことが誤りであることは検察官の控訴論旨について述べた通りであるが、さればといつて、右両被告人の過失責任を援用して被告人cの過失を否定する所論の当らないことは既に説述したところにより明白である。所論は採るに値しない。
第七点について、
<要旨第五>所論の点について被告人cとその余の被告人両名との間に利害相反の関係が認められるにしても原審にお要旨第五>いて各被告人は弁護士米沢庄次郎を共同の弁護人に選任し各自の訴訟行為を同弁護人に委任しているのであるから、同弁護人は各被告人を代理して適法に訴訟活動を行うことを得るのは当然である。偶々同弁護人の主張や立証が、被告人cに不利益で他の被告人に有利に傾くことがあつたとしても、これが為め被告人cに弁護人を附さないで公判手続を続行したこととなるものではない。所論は理由がない。
第八点について、
記録を精査し諸般の情状に照らして考察すれば被告人cに対し原審が禁錮十月を量定したととは決しで過重ではない。殊に原審は右刑に期間二年の執行猶予を与えているのであるから十分にその情状を酌量しているのでおる。論旨は理由がない。
被告人cの弁護人神保泰一の控訴趣意書記載論旨について、
所論の諸点はよく記録に現われているところであるが、多く情状に亘る事柄であつて、それら事実の凡てをもつても尚おc被告人が注射器に充薬するに際し取るべき薬液確認の義務違反を如何とも為し難いのであり、所論は採用することが出来ない。
以上の次第であるから検察官の被告人cに対する控訴並に同被告人の控訴はいずれも理由がないものとして刑事訴訟法第三百九十六条によりそれぞれこれを棄却し検察官の被告人a及び同bに対する控訴は理由があるので刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決中同被告人らに関する部分を破棄し更に当裁判所において次の通り被告事件について審理判決する。
(罪となる事実)
第一、 被告人aは国立d病院薬剤科に勤務し薬剤師として院内における医薬品の調製保管調剤及び交付の業務を担当していたもとのであるが昭和二十六年八月一日右病院製剤室において葡萄糖注射液六、五〇〇C.C.外数種の薬剤と共に同病院耳鼻科に使用する三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を調製したところ、右ヌペルカインは薬事法上の名称をブチルオキシシンコニン酸ヂエチルエチレンヂアミドと称する劇薬であるから外見上一見してそれと認識し得るよう他薬と紛れ易い容器を避け又容器には薬事法の要求に従い赤枠赤字をもつて品名及び「劇」の字を記載した標示紙を貼付し且つ他の物と区別して貯蔵又は陳列して他薬との混同誤認を生じないよう措置すべき義務上の注意義務があり特に多人数が職務を分担勤務する病院の薬局においては右の義務は一段厳格な規律を要請されることころであるのに被告人はこれを怠り其の製剤した前記三%ヌペルカインを同時製剤の葡萄糖注射液(両者は共に無色透明で外観上これを識別出来ない)と共に同型同大の一〇〇C.C.入コルベン容器に詰めて同様の封緘を為し且つ薬事法第三十五条の要求に違反して葡萄糖注射液に施したと同様の青枠白地の用紙に青インクをもつて「三%ヌペルカイン」と記入したのみの標示紙を容器の右同様部位に貼付した上滅菌の為め右葡萄糖注射液一〇〇C.C.入コルベン容器もろとも同日午後八時過頃から翌二日朝まで同一の滅菌器に混入存置した為め同朝九時三十分頃薬剤科勤務の事務局上司である被告人等薬剤師の業務を補助し各科看護婦に対する葡萄糖などの注射液引渡の事務を担当していたb被告が其の事務遂行に必要な葡萄糖注射液の容器を求めて右滅菌器の中を窺い在中の一〇〇C.C.入コルくベン容器を全部葡萄糖注射液と信じたため一括これを取り出して普通薬を貯蔵する製剤室薬品棚に納めもつて右ヌペルカイン入容器を他薬の葡萄糖注射液の容器などと共に混蔵せしめるに至つたのであるが、被告人は右滅菌器に他薬と混入してヌペルカインの三%溶液を滅菌して置いたことを不注意にも忘却しており右bの行為を現認しながら同人に対しその労を謝するのみで何ら右劇薬が他薬と混在して陳列せらること特に容器、標紙、封緘、及び内容液の外観が全く同一である葡萄糖液と混在することの危険に想到することなく漫然b被告の右過失行為を看却すると共に右ヌペルカイン容器を所定の劇薬格納場所に蔵置する措置を忘失し、因つてb被告において右ヌペルカイン容器を葡萄糖注射液と誤信したまま同日午前病棟看護婦gに対しこれを葡萄糖注射薬として交付した為めgもこれを葡萄糖注射液と誤信して何ら劇薬ヌペルカインを必要とせず又その取扱の例のない内科病棟処置室に持ち運び看護婦等により注射液の充薬などに共用せられる同室処置台の上に置いたので、更にその外観により同様これを葡萄糖注射液と誤認したc被告は二〇C.C.注射器三本に詰めてその内の二本を看護婦lと共に一本宛携行して病棟内受持病室に到り各自入院患者hとiに対しその静脈血管内に注射しこれが為め右両名を同日午後一時十五分頃ヌペルカイン中毒により死に致したのであり、該中毒死は被告人の前記諸般の業務上の注意義務違反の過失行為がその後者等の過失と連結して惹起したものである。
第二、 被告人bは右国立d病院薬剤科に事務員として勤務し、科長eの指揮監管の下に薬剤科所管業務の内薬剤に関する文書整理並びに主治医師の処方箋により各科看護婦から要求せられる薬品交付などの事務を担任していたものであるが前記日時薬剤科事務室において内科病棟看護婦gより葡萄糖注射液の交付を求めちれた際薬品を取扱う事務に従事する者としてその引渡す薬品が、要求を受けた薬品に相違ないかどうかを標示紙に記入せられた薬品名などにより確認し危害を未然に防止すべき義務があるに拘らず之を怠り容器、封緘、標止紙、内容液などの外観が同一でおることから漫然三%ヌペルカイン液一〇〇C.C.在中の容器コルベインを葡萄糖注射液在中のコルベインなるが如く軽信して右gに交付した結果前記経緯により看護婦c被告においてもこれを葡萄糖注射液でおるものと速断して注射器に詰め看護婦lと共に前記二名の患者の静脈血管内に注射し因つて同人等をヌペルカイン中毒により死に致したのであり、同中毒死は被告人の右業務上の注意義務違反の過失行為がその前者並に後者の前記過失と連結して惹起したものである。
(証拠)
以上の事実は検察官の各論旨に対する説示に挙示せられた証拠並に鑑定人mの死体解剖鑑定書を総合してこれを認むるに十分でおる。
(法律の適用)
被告人aの判示所為中三%ヌペルカイン容器の標示用紙の白地に赤枠、赤字をもつてその品名及「劇」の字を記載しなかつた点は薬事法第二条十二項、第三十五条第二項、第五十六条、薬事法施行規則第二十七条及その別表第一号罰金等臨時措置法第二条第一項に、業務上過失致死の点は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第一項にそれぞれ該当するところ右は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条により其の中重い薬事法第三十五条違反罪の刑に従い所定刑中懲役刑を選択し所定刑期範囲内で同被告人を懲役十月に処し諸般の犯情を憫諒し刑法第二十五条に因り右刑の執行を二年間猶予することにする。
次に被告人bの判示所為は刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ所定刑中罰金刑を選択し所定罰金額の範囲内で同被告人を罰金三千円に処し同罰金不完納の場合の労役場留置期間を刑法第十八条に従い主文の通り定める。
尚お国選弁護人荒谷昇に支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人両名の平等負担とする。
尚お被告人aに対する本件公訴事実中薬事法第三十九条違反の点はその犯罪の証明がないこと前記検察官論旨第二点に対する判断において示した通りであるから同事実については同被告人は無罪であるが、右訴因は同被告人に対するその余の事実と一所為数法の関係で起訴せられたものであるから主文において特に無罪の言渡をしない。
そこで主文の通り判決する。
(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)
pdf 165KB BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=03&hanreiNo=24920&hanreiKbn=02
高裁判例
事件番号 昭和27う29
事件名 薬事法違反竝びに業務上過失致死被告事件
裁判年月日 昭和27年06月13日
裁判所名・部 名古屋高等裁判所 金沢支部 刑事部
結果 破棄自判
高裁判例集登載巻・号・頁 第5巻9号1432頁
原審裁判所名
原審事件番号
判示事項
一、 上司の指揮監督と薬事法上の義務
二、 減菌器に劇薬を他薬と混在して、滅菌する行為と薬事法の貯蔵
三、 相牽連する複数の過失行為と因果関係
四、 看護婦による静脈注射と業務上の過失致死
五、 利害相反する共同被告人に対する単一私選弁護人の訴訟行為
裁判要旨
一、 薬剤師として薬事法の規定を遵守すべき義務のある者は、法規の認める範囲内において上司の指揮監督に服すベきで、上司の指揮または慣行があることを理由として薬事法所定の義務を免れることはできない。
二、 滅菌処理の目的で、劇薬ヌペルカイン在中のコルペンと葡萄糖注射液在中のコルペンを同一滅菌器に入れて存置したのは、薬事法三九条の貯蔵に該当しない。
三、 Aの過失行為とBの過失行為との間に甲の行為が介在した場合、甲の行為が前者の過失行為を補足し是正するに足るものでなくその発展の危険を増大せしめるものであるときは、Aは過失の責を免れることはできない。
四、 看護婦が医師の指示により静脈注射をすることは、刑法第二一一条の業務に該当する。
五、 共同被告人に対する単一私選弁護人が、各被告人相互の間に利害相反する主張または立証をしても、これがため不利益を受ける被告人のため弁護人を付さないで公判手続を続行したことになるものではない。
これへの局長名の回答は、「静脈注射は高度な手技であり、医師がすべきものであるから看護婦の『業務』ではない」とし、「静脈注射は医師が行うべきものである」という局長通達を出した。
福井地裁、名古屋高裁で行われた裁判では、保健婦助産婦看護婦法や看護学校の教育課程なども検討された結果「看護婦の業務である」とされ、この看護婦は業務上過失致死の罪を問われ、刑は確定した。
(医収第五一七号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長回答)
標記について福井県知事よりの照会(別紙甲号)に対し別紙乙号の通り回答したから今後は関係団体とも協力の上回答の趣旨の徹底に努め、これが励行せられるよう御指導願いたい。
〔別紙甲号〕
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈について照会標記について今般福井地方検察庁から照会がありましたので、之が解釈の正確を期するため貴省の御意見伺い度御繁忙中恐れ入りますが左記事項速急御回示願いたく御照会します。
記
一 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に於いては、「保健婦、助産婦、看護婦または准看護婦は主治の医師または歯科医師の指示があった場合の外診療機械を使用し、医薬品を 授与しまたは医薬品について指示をなし、その他医師若しくは歯科医師が行うのでなければ 衛生上危害を生ずる虞のある行為をしてはならない。」と規定してあるが、右の行為は医師の指示による診療機械の使用と謂い得るか。
一 看護婦が医師の処方箋に基いて患者にブドウ糖の静脈注射をなすこと(医師は現場に居合わさず。)
〔別紙乙号〕
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
八月二十九日医第一四八一号をもって照会のあった標記の件については別紙写の福井地方検察庁検事宛回答により御諒承の上今後関係団体とも協力し回答の趣旨の周知徹底に努めこれが励行せられるよう御指導願いたい。
(別紙写)
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
(昭和二六年九月一五日 医収第五一七号)
(福井地方検察庁検事あて厚生省医務局長回答)
八月二十八日日記第一○二一号をもって照会のあった標記について左記の通り回答する。
記
看護婦の業務内容は保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年七月三十日法律第二百三号。改正昭和二十六年四月十四日法律第百四十七号。以下法と略称する。)第五条に規定する通り傷病者若しくじ.ょ.く.婦に対する療養上の世話と医師又は歯科医師の行う診療の補助とである。
法第三十七条の規定は、法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内においても、特定の業務については、医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであることを規定しているものである。
照会のあった静脈注射は、薬剤の血管注入による身体に及ぼす影響の甚大なること及び技術的に困難であること等の理由により医師又は歯科医師が自ら行うべきもので法第五条に規定する看護婦の業務の範囲を超えるものであると解する。従って静脈注射は法第三十七条の適用の範囲外の事項である。
しかし従来斯かる法の解釈が一般に徹底せず又医師数の不足等の理由により、大部分の病院等においては医師又は歯科医師の指示により看護婦が静脈注射を行っていたのが実情であり、今直ちに全般的に法の解釈通りの実行を期待することは困難な事情もあるので、当局としては今後漸次改善するよう指導する方針であるから、貴庁においても事案の処理にあたっては十分これらの事情を斟酌願いたい。
照会
最近国立鯖江病院での注射禍事件が八月二十六日の毎日新聞および医薬通信第二六六号、その他関係刊行物等で論議され、特に看護婦は静脈注射を禁止されているかのように論ぜられているが、もし静脈注射が看護婦に禁止されている行為であるとすれば、これを行った場合は当然医師法第十七条に抵触することとなり、保健婦助産婦看護婦法第三十七条との関係が曖昧となると思われ指導上聊か疑義があるので何分の御指示を煩わしたい。
なお前記保、助、看法第三十七条にいう医師の指示の範囲は文書であると口答であると問わず医師が看護婦に対して意思表示をすればよく、また指示した事項が実行される間現場で推移を目撃している必要はないものと考えるが、この解釈も併せて御指示を御願いする。
回答
去る九月十二日衛医第三、一二五号をもって貴県衛生部長から照会のあった右のことについては、左記の通り回答する。
記
1 静脈注射は、本来医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって保健婦助産婦看護婦法第五条に規定する看護婦の業務の範囲外であり、従って、看護婦が静脈注射を業として行った場合は、医師法第十七条に抵触するものと解する。但し、実際の指導取締に当たっては、本年九月十五日医収第五一七号通牒末項の趣旨によられたい。
なお、保健婦助産婦看護婦法第三十七条の規定は、同法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内においても特定の業務については、医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであることを規定しているものである。
2 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に規定する指示とは、必ずしも文書によることを要しないが、如何なる程度の指示を同条による指示と解すべきかは、具体的な場合について個々に判断する外はない。
3 なお本件については、本年九月十五日医収第五一七号(保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について)通牒を参照されたい。
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/141004-a.pdf
医政発第 0930002 号
平成 14 年 9 月 30 日
各都道府県知事殿
厚生労働省医政局長
看護師等による静脈注射の実施について
医政発第0930002 号
平成14年9月30日
各都道府県知事殿
厚生労働省医政局長
看護師等による静脈注射の実施について
標記については、これまで、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)により、静脈注射は、医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条に規定する看護師の業務の範囲を超えるものであるとしてきたところであるが、今般、平成14年9月6日に取りまとめられた「新たな看護のあり方に関する検討会」中間まとめの趣旨を踏まえ、下記のとおり取り扱うこととしたので、貴職におかれては、貴管下保健所設置市、特別区、医療機関、関係団体等に対して周知方お願いいたしたい。
なお、これに伴い、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)及び同通知(昭和26年11月5日付け医収第616号)は、廃止する。
記
1 医師又は歯科医師の指示の下に保健師、助産師、看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)が行う静脈注射は、保健師助産師看護師法第5条に規定する診療の補助行為の範疇として取り扱うものとする。
2 ただし、薬剤の血管注入による身体への影響が大きいことに変わりはないため、医師又は歯科医師の指示に基づいて、看護師等が静脈注射を安全に実施できるよう、医療機関及び看護師等学校養成所に対して、次のような対応について周知方お願いいたしたい。
(1)医療機関においては、看護師等を対象にした研修を実施するとともに、静脈注射の実施等に関して、施設内基準や看護手順の作成・見直しを行い、また個々の看護師等の能力を踏まえた適切な業務分担を行うこと。
(2)看護師等学校養成所においては、薬理作用、静脈注射に関する知識
・技術、感染・安全対策などの教育を見直し、必要に応じて強化すること。
医事法判例百選と高裁の判決文から、ことのあらましは、
- 鯖江病院薬剤部では、劇薬を他の薬と区別せずに貯蔵ないしは、容器のラベルに赤枠ラベルを貼るなどの管理をしておらず、薬事法に反していて、これを慣習として漫然と放置していた。
- 昭和 26 年 8 月 1 日、薬剤師 ( 被告 a ) は、劇薬である 3% ヌペルカイン溶液を、内科処置用に調剤し、劇薬として他と区別することなく、ブドウ糖液と同じ外観のラベルにヌペルカインと薬品名だけ書いて、ブドウ糖液と同じ容器に入れて置いた。
- 病棟と薬剤部を取り次ぐ事務員 ( 被告 b ) は、ヌペルカイン溶液とブドウ糖液が入った容器を病棟に運搬し、劇薬として区別することなく置いておいた。
- 看護婦 ( 被告 c ) は、ブドウ糖液と思い込んで、ヌペルカイン溶液を、医師の指示の下、2 名の患者に静注し、患者が死亡した。
- 薬剤師 ( 被告 a ) は、上司の指揮下で慣習として行っていたことを主張したが、薬剤師の業務として過失があるとされた。
- 看護婦 ( 被告 c ) は、看護婦の静注は業務でないことを主張したが、業務として過失があるとされた。
- それぞれ猶予付き禁固刑となった。
- 福井地裁判決では、看護婦のみが有罪とされていた。
システムを設計し、それを稼働させるだけのコストとマンパワーが必要です。
最高裁判決 昭和 28 年 12 月 22 日
昭和27(あ)3776 業務上過失致死等被告事件昭和28年12月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
主文
本件各上告を棄却する。
理由
各弁護人の各上告趣旨は末尾添附別紙記載のとおりである。
弁護人高田利広の論旨中には判例違反、憲法違反を主張するものも、あるけれども、原審は被告人等の行為は被告人等がその社会上の地位に基き継続的に従事する事務であつて人の生命身体に対する危険を伴うもので、しかも適法の業務であると判断したものであることは判文上明であるから、所論判例違反論及び憲法違反論はいずれも前提を欠くものである。弁護人笠島永之助の論旨中にも判例を挙げて居るけれども原資決が該判例に相反する処は何も無いので問題にならない。その他の論旨はいずれも刑訴法四〇五条所定の上告理由に該当しないし、同法四一一条を適用すべき理由もない。(一)被告人Aは厚生技官であるけれども薬剤師としての技官である。薬剤師が製剤した場合、薬事法所定の標示を為すべき義務あること勿論である。これは病院の使用人として為す場合でも変りはない。所論薬剤科業務分担表によるも右義務を免るべき理由を見出し得ない。(二)国立病院の製剤については薬事法の適用がないと解すべき理由はない。(三)看護婦が医師の指示に従つて静脉注射をするに際し過失によつて人を死傷に致した場合には刑法二一一条の責を負わなければならない。その他被告人等の過失並相当因果関係に関する原審の判断は正当である)。
よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
昭和二八年一二月二二日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 井上 登
裁判官 島 保
裁判官 河村 又介
裁判官 小林 俊三
裁判官 本村 善太郎
pdf 86KB BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=30969&hanreiKbn=01
最高裁判例
事件番号 昭和27(あ)3776
事件名 業務上過失致死等被告事件
裁判年月日 昭和28年12月22日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集巻・号・頁 第7巻13号2608頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所 金沢支部
原審事件番号
原審裁判年月日
判示事項
看護婦が薬品を間違えて静脈注射をし患者を死に致した場合と業務上過失致死罪の成否
裁判要旨
看護婦が主治医の処方箋によつて、患者に静脈注射をするに際し、注射液の容器に貼付してある標示紙を確認せず、薬品を間違えて注射をした過失により、これを死に致したときは、業務上過失致死罪が成立する。
参照法条
刑法211条,保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律第203号)5条,保健婦助産婦看護婦法6条,保健婦助産婦看護婦法37条
名古屋高裁判決 昭和 27 年 6 月 13 日
昭和27う29事件名 薬事法違反竝びに業務上過失致死被告事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/917E13EF6523D0A749256CFA0005B77E.pdf
主文
原判決中被告人a及びbに関する部分を破棄する。
被告人aを懲役拾月に処する。
被告人bを罰金参千円に処する。
但し被告人aの右懲役刑の執行を二年間猶予する。
bにおいて右罰金不完納のときは金弐百円を壱日に換算した期間同人を労役場に留置する。
被告人cの控訴並に検察官の同人に対する控訴はそれぞれ之を棄却する。
弁護人荒谷昇に支給した訴訟費用は被告人a同bの平等負担とする。
理由
被告人等三名に対する検察官の控訴論旨は福井地方検察庁武生支部検察官検事神野栄一提出の昭和二十七年三月六日付控訴趣意書被告人cの弁護人高田利広外二名の控訴論旨は同弁護人ら連名の昭和二十七年三月十日付控訴趣意書並に神保泰一弁護人の右同日付第二控訴趣意書、被告人a及びbの弁護人米沢庄次郎の答弁要旨は同被告人等国選弁護人荒谷昇の昭和二十七年三月十三日付答弁書にそれぞれ記載する通りであるからこれを引用する。
検察官の控訴論旨
第一点について、
原判決は本件公訴事実中被告人aに対する薬事法第三十五条違反の訴因に対し「国立d病院での製剤又は調剤は薬剤科長である厚生技官薬剤師eの指揮監督の下に行われるもので、それに対する一切の責任は同人にあつて被告人aはその部下の一職員としてその指揮命令を受けて忠実に薬剤科の担当職務につき補助行為をする職責があるもので勿論部下として上司に対し職務上に関し意見を具申するのは善良誠実な国家公務員として当然尽すべき責務があるものと云うべきであるが、同病院薬剤科では従来から劇薬の取扱についてはただ其の格納場所を普通薬等と区分するだけでその容器に貼布する標示紙については薬事法に定める区別をせず、それを漫然慣行していたものである。よつて劇薬に薬事法所定の標示紙を貼布しなかつたこと即ち被告人aが昭和二十六年八月一日製剤した劇薬ヌペルカイン溶液の容器コルベンに赤枠赤字で品名と「劇」の字を記載しなかつたことは同病院薬剤科長eの指揮監督の下に従来からの慣行によつたまでのことでその責任は部下職員である被告人aが負うべきものといえず同被告人の過失として責むべきものでない。しかし被告人aとしては薬剤科勤務の一薬剤師たる技官として右悪慣行を改善するため適宜意見を上申しその実現されるよう努力するの誠実さに欠けていた遺憾の点はあるがそれはまた別の問題である」旨論じ右<要旨第一>の訴因につき被告人aの無罪を判定したものである。しかし被告人が国立d病院薬剤科勤務の厚生技官と要旨第一>して科長eの職制上の指揮監督を受けることと、其の薬剤師としての職務執行に当り薬事法の規定を遵守すべき義務を有することとの間に明確な区別が存するのであり上命下従は法の認める範囲内においてのみ許され、法上の義務ないし刑罰法規に反してまで認めらるべきでないことは勿論である。故に右病院薬剤科において右原判示のような薬事法違反の慣行があり、同慣行は薬剤科長eの指揮監督に出たもめとしても被告人は斯る慣行に随従する義務なく却つて薬剤師として薬事法所定の義務を遵守する独自の責務を負担することは極めて明白である。まして原判決がその判断の資料に供している挙示の証拠によるも薬剤科長eが積極的行為をもつて右薬事法違反の所為を指揮した証拠はなく単に同人には同違反の慣行を消極的に黙認した職務懈怠の責任を認めうるに過ぎないのであるから同人の同職務懈怠行為は単に被告人の薬事法違反の具体的行為との間に犯意共通の共犯関係を生ぜしめるかどうかの問題を提出するに止まり、被告人について成立する刑事責任自体には何らの消長を来すものでないことはいよいよ明白であるといわなければならない。もつとも検察官は証人fの原審公廷における供述の一齣を援用して同病院に赤枠赤字の劇薬用標示紙の用意があつたことを主張し被告人のこれが不使用を難詰するけれども、右f証人の証言は必ずしも明確断定的な表現を取るものでないのみならず記録に現われている被告人の供述は凡てこれを否定し他にこれを肯定する資料がないので右被告人らの職務上の不法慣行と照らし合せ考えれば所論のような標示紙の準備はなかつたものと見る外はないのであるが、さればといつて薬事法第三十五条第二項は「劇薬の標示には白地に赤枠、赤字をもつてその品名及「劇」の字を記載しなければならない。」と規定するのみで印刷その他特定型式の用紙を用うることを要求するものではないから被告人において劇薬の標示を為すに当り右規定の趣旨を遵守する意思さえあるならば任意の白地用紙把一挙手の労をもつて右要件を手記し得る筈であつたことが強調されなければならない。故に原判決が前掲記の如く「被告人aとしては薬剤科勤務の技官として右悪慣行を改善する為め適宜意見を上申しその実現されるよう努力するの誠実さに欠けていた遺憾の点はあるがそれはまた別の問題である」と論じ恰も被告人が本件劇薬ヌペルカインに施した標示の違反行為がひとえに上司の指揮監督上の責任に帰属し被告人自身の如何とも為し難い原因に起因するものの如く判示したのはまことに失当上云わなければならない。以上諸般の理由により原審が被告人aに対する薬事法第三十五条違反の訴因につき行つた判断は違法であり同違法は判決の結果に影響を及ぼすから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
論旨第二点について、
本論旨の趣旨は被告人aに対する公訴事実中薬事法第三十九条第一項違反(起訴状並に本論旨は薬事法第三十九条第二号と記載するも上記条項の誤記と認める)の訴因の対象としたのは「aが昭和二十六年八月一日製剤した葡萄糖注射液在中のコルベン容器数本と劇薬である三%ヌペルカイン在中のコルベンを同一減菌器に入れ翌二日まで放置した」事実であるのに原判決は「被告人bが右二種の薬品を滅菌器から取出し同一戸棚に整理した」事実を右訴因の対象事実と即断して、輙く検察官の訴因を排斥したのは審判の請求をした事実について判決をしない違法があるというのである。しかし起訴状の記載を精査するも右薬事法違反の訴因は右前者の事実のみに限定して構成記述せられたものと断定するには多少の不安を存し、或は後者の事実をも包含する趣旨でないかの疑を容れる余地がないでもないのであるから原判決が後者の事実につき所論のような判断を示したことを以て釈明権不行便の非難を免れ難いことは兎も角原審一方の速断のみに帰するのは正当ではない。そして原判決が右薬事法第三十九条違反の訴因排斥に示した判示理由中に「被告人aがその製剤中の劇薬三%ヌペルカイン在中のコルベンと葡萄糖注射液在中のコルベンとを同一滅菌器に入れて滅菌したのを翌二日被告人bがこれを取り出し云々」の事実を認定判示した上結局右訴因の成立を否定したところから推測すれば右原判決の趣意は「被告人aが判示ヌペルカイン在中のコルベンと葡萄糖注射液在中のコルベンとを同一滅菌器に入れた」所為は薬品の滅菌処理であつて貯蔵ではないことを判示したものと認むるを相当とするから原判決は必ずしも所論のように審判の請求を受けた事件について審判をしなかつたものと断言すること<要旨第二>が出来ない。而して原審において取調べた証拠によれば被告人aが判示ヌペルカイン在中コルベンを他のコ要旨第二>ルベンと共に判示滅菌器に入れたのは其の滅菌処理を目的とし貯蔵の目的でないことが明白であり、又、被告人の原審第一回公判調書の供述記載によればこれを翌朝迄滅菌器中に存置したことも亦右処理の効果をより完全にする目的であつたと云うのであるから同被告人が、右ヌペルカイン在中コルベンを他薬のコルベンと共に滅菌器に混入して翌朝まで存置した行為をもつて薬事法第三十九条にいわゆる貯蔵の意思をもつてしたものと断定するに由がないものと云わなければならない。それ故原審の所論訴因に関する判断は結局正当に帰し本論旨は採用することが出来ない。
論旨第三点について、
原判決は本件公訴事実中被告人a並にbに対する業務上過失致死の各訴因においてそれぞれ当該被告人の過失を構成する素材として主張せられた事実を起訴状通りに認定しながら論旨摘録の如き理由の下に右被告人らの過失行為は同行為と被告人cの過失行為との間に介入した看護婦gの行為によつて「補足、是正」(中断)せられたものとし、その後cが内科処置台にあつた三%ヌペルカイン入一〇〇C.C.コルベンを過つて葡萄糖注射液と速断してこれを注射器に詰め同人外一名により患者h、iに注射して死亡せしめた結果と被告人a、b両名の右過失行為との間には相当因果関係がないものと断定し両名の責任を否定したものである。そこで原判決が右相当因果関係否定の根拠と為す看護婦gの行為を其の者の直接の前者である被告人bの行為及び其の者の直接の後者である被告人cの行為とのそれぞれの連関において検討すべく、司法警察員及び検察官の各面前におけるa、g、j、b、cの各供述調書中の記載、原審証人g、同jに対する尋問調書中の供述記<要旨第三>載並に司法警察員の実況見聞調書及び原審検証の結果を総合すると被告人aの
製した三%ヌペルカイ要旨第三>ン液一〇〇C.C.入コルベンを過つて葡萄糖入コルベンと誤信した被告人bがこれを主任医師の処方箋に基き患者に対する葡萄糖注射液一〇〇C.C.を請求する内科病棟看護婦gに交付しgも又これを過つて自己の請求した葡萄糖入コルベンと誤信して病棟に持ち来り、内科病棟処置室の処置台の上に一旦置いて他用の後患者に対する葡萄糖注射の為め処置台のところへ立ち戻り注射器に詰めんとして偶々右容器の品名に気着きその三%ヌペルカインなることを知つたが、内科病棟処置室の処置台にかような劇薬の存することの不審の余り、尚自己が誤つて持参した事実にも想到せず、「ああこんなものどうしたんだろう、レントゲンの気管透視にでも使うのか」と思いそのまま処置台の隅に片寄せたのみで放置した為め、その後に病棟の受持患者に対する葡萄糖注射の準備に来室した被告人cは同所が常に病棟患者に対する注射液充薬の為各看護婦共用の場所であつて処置台上に注射液の容器が置かれる外ヌペルカインなどの劇薬が放置せられた例が絶無であつたところから葡萄糖注射液と同様の容器、標示を具え且つ共に無色透明な同一の外観を有する前記コルベン入りヌペルカイン溶液をその薬品名の記載に注意することも忘れ葡萄糖注射液と速断して其の内約六〇C.C.を二〇C.C..入注射器三本に詰めて外一名の看護婦と共に受持病室に持参して前記入院患者二名に注射して同人等を即時絶命せしめたものである事実が認定せられる。故に右認定事実によれば原判決の判示gの行為は何等同人の前者の過失行為を「補足し是正」するに足るものではなく却つて前者の過失行為の発展の危険を更に過失によつて維持増大せしめたものと見なければならない。
されば、原判決が右gの行為により被告人a及びcの過失が治癒されたものと解しh外一名の致死の結果に対する右両名の責任を輙く否定したのは因果関係の存否に関する重大な事実を誤認したものであると云わなければならない。
よつて更に前掲各証拠にeの司法警察員及検察官に対する供述調書を総合して被告人a並にbについての過失行為の内容と其の後者の過失行為に与えた影響力を検討するに、
一、 a被告人は昭和二十六年八月一日国立d病院勤務の薬剤師として同病院薬剤科製剤室において葡萄糖注射液六・五〇〇C.C.外数種の薬剤と共に同病院耳鼻科に使用する三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を調製したこと。
二、 古ヌペルカインは薬事法上の名称をプチルオキシシンコニン酸ヂエチルエチレンヂアミドと称せられる指定劇薬であるから外見上一見してそれと判明し得るよう他薬と紛れ易い容器を避け又、容器には薬事法の要求に従い赤枠赤字を以て品名及び「劇」の字を記載した標示紙を貼付し且つ他の物と区別して貯蔵又は陳列して他薬との混同誤認を生じないよう注意する業務上の義務があり特に多人数が職務を分担して勤務する病院薬局においては其の義務が一段と厳格に要請されること。
三、 被告人は右業務上の注意義務を怠り其の製剤した前記三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を同時製剤の葡萄糖液と同型の一〇〇入C.C.コルベン容器に詰めで同様の封緘を為し且つ葡萄糖注射液に施した標示と同色同型の標示紙に青インクを以て「三%ヌペルカイン」と記入して容器に貼付し、これを古葡萄糖注射液在中の一〇〇C.C.入コルベン容器十数本外数種の薬品容器と共に滅菌の為め同一の滅菌器に入れて翌二日まで存置したこと。
四、 右ヌペルカインと葡萄糖注射液は共に無色透明で外観上両者を全く識別し得ないものであること。
五、 翌二日午前九時三十分頃薬剤科勤務の事務員で病棟勤務の看護婦に対しその持参する主任医師の処方箋に基き葡萄糖、ザルブロ、リンゲル、ホモスルフアミインの各注射液を引渡す任務を負うていた被告人bが前記滅菌器内にある薬品全部を取出し其の中前記ヌペルカイン入容器の混在に気付かず一〇〇C.C.入コルベインは全部葡萄糖注射液と誤認して所定の製剤室薬品棚に他薬と共に混在せしめたままこれを格納したこと。
六、 被告人は右滅菌器に他薬と混入してヌペルカインを滅菌して置いたことを不注意にも忘却していたため右bの行為を現認し乍ら、bの労を謝するのみで何ら右ヌペルカインが他薬と混在すること特に容器、標紙封緘、及び内容物の外観が全く同一の葡萄糖液と混在することの危険に想到しなかつたこと、従つて又右ヌペルカインを劇薬の保管場所に定められていた製剤室調剤台の側面扉内に蔵置することを怠る過ちを犯したこと。
七、 被告人bは前記六記載の行為の後次いで右ヌペルカインを葡萄糖注射液と誤信したまま他の真正な葡萄糖液数本と共に前記格納場所から取出して薬剤科事務室の自席にある薬品戸棚に持参した上前記説示の経過によりこれを其の後者に交付し順次各人の過失が連帯結合して前記患者を死に致したこと。
以上の事実が明白に認定せられるから被告人a並びにbの右各過失行為と右被害者の致死の結果との間に因果関係の成立を十分に認めることが出来ると云わなければならない。よつて原判決はこの点でも破棄を免れない。論旨は理由がある。
論旨第四点について、
しかし本件諸般の情状に徴して考察すれば被告人cに対し原判決が禁錮十月を量定し刑の執行を猶予したことをもつて所論のように量刑寛大に失するものとは云うことが出来ない。論旨は採用出来ない。
被告人cの弁護人高田利広外二名の控訴趣意書記載論旨
第一点及び第二点について、
所論証人の供述並に厚生省医務局長作成の調査報告書及びその附属の看護婦実習教本抜萃によれば看護婦学校における教育の教程には静脈注射は医師自ら行うべきもので看護婦はこれを補助するに止まるべきものとの考の下に其の技術上の実習指導を行つていないことが認められるから右教育の方針は静脈注射をもつて医師の具える医学的知識と技術によるのでなければ患者の身体に危害を及ぼす虞れのある行為と認める観念に立脚し<要旨第四>ていることは明かである。しかし看護婦は保健婦助産婦看護婦法第五条第六条第三十七条の各規定に徴すれば要旨第四>主治の医師の指示する範囲において其の診療の補助者として、傷病者に対し診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示し及びその他の医師の行うことの出来る行為をすることが許されているものと解すべきであるから、看護婦が医師の指示により静脈注射を為すことは当然その業務上の行為であると云わなければならない。故に原判決が被告人c看護婦が患者h外一名の主治医kの処方箋による指示により右患者等に葡萄糖液の静脈注射を行うため注射器に注射液を充填した上l看護婦と共に各自右患者等の静脈血管に注射器内の液体を注入したことをもつて一連の業務行為と認める趣旨を判示したことは正当でおり原判決には所論のような虚無証拠による事実の認認や事実の誤認、理由不備又は理由齟齬などの違法はない。論旨は理由がない。
第三点について、
原判決を精読すわば所論cの行為の日時及び場所は十分に諒知し得られる。所論は理由がない。
第四点について、
原判決拳示の証拠を検討すれば被告人cの原判示過失行為は十分に之を認定し得るから所論は採るに足らない。
第五点について、
被告人cは入院患者のh外一名の主治医kの指示により其の処方箋に基く葡萄糖注射を為すに当り過つて注射器に三%ヌペルカイン液を詰めl看護婦と共に右患者等に注射して同人らを死に致した事実が同被告人について業務上の過失致死罪を構成することは前記各論旨に対し解説した通りである。所論は医師kが自ら為すべき注射を看護婦に命じてその為すままに放任したことの責任を追求することにのみ急であつて、容器の品名を一見するのみで薬液の誤認を避け得た被告人cの注意義務違反の責任については甚だ寛大に失するうらみがある。殊に右患者の死亡は病院において調剤、診療補助の業務に従事し薬品を取扱う者の普通に遵守すべき注意義務に違反した薬品取扱上の過失責任の複合に基因したもので医師の処方箋上の過失や注射施行者の技術上の過失に因るものでないのであるから、本件に関する限り医師kの責任を負う余地は殆んどないものと云わなければならない。所論は採用することができない。
第六点について、
原判決が、被告人a、同bの責任を否定したことが誤りであることは検察官の控訴論旨について述べた通りであるが、さればといつて、右両被告人の過失責任を援用して被告人cの過失を否定する所論の当らないことは既に説述したところにより明白である。所論は採るに値しない。
第七点について、
<要旨第五>所論の点について被告人cとその余の被告人両名との間に利害相反の関係が認められるにしても原審にお要旨第五>いて各被告人は弁護士米沢庄次郎を共同の弁護人に選任し各自の訴訟行為を同弁護人に委任しているのであるから、同弁護人は各被告人を代理して適法に訴訟活動を行うことを得るのは当然である。偶々同弁護人の主張や立証が、被告人cに不利益で他の被告人に有利に傾くことがあつたとしても、これが為め被告人cに弁護人を附さないで公判手続を続行したこととなるものではない。所論は理由がない。
第八点について、
記録を精査し諸般の情状に照らして考察すれば被告人cに対し原審が禁錮十月を量定したととは決しで過重ではない。殊に原審は右刑に期間二年の執行猶予を与えているのであるから十分にその情状を酌量しているのでおる。論旨は理由がない。
被告人cの弁護人神保泰一の控訴趣意書記載論旨について、
所論の諸点はよく記録に現われているところであるが、多く情状に亘る事柄であつて、それら事実の凡てをもつても尚おc被告人が注射器に充薬するに際し取るべき薬液確認の義務違反を如何とも為し難いのであり、所論は採用することが出来ない。
以上の次第であるから検察官の被告人cに対する控訴並に同被告人の控訴はいずれも理由がないものとして刑事訴訟法第三百九十六条によりそれぞれこれを棄却し検察官の被告人a及び同bに対する控訴は理由があるので刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決中同被告人らに関する部分を破棄し更に当裁判所において次の通り被告事件について審理判決する。
(罪となる事実)
第一、 被告人aは国立d病院薬剤科に勤務し薬剤師として院内における医薬品の調製保管調剤及び交付の業務を担当していたもとのであるが昭和二十六年八月一日右病院製剤室において葡萄糖注射液六、五〇〇C.C.外数種の薬剤と共に同病院耳鼻科に使用する三%ヌペルカイン溶液一〇〇C.C.を調製したところ、右ヌペルカインは薬事法上の名称をブチルオキシシンコニン酸ヂエチルエチレンヂアミドと称する劇薬であるから外見上一見してそれと認識し得るよう他薬と紛れ易い容器を避け又容器には薬事法の要求に従い赤枠赤字をもつて品名及び「劇」の字を記載した標示紙を貼付し且つ他の物と区別して貯蔵又は陳列して他薬との混同誤認を生じないよう措置すべき義務上の注意義務があり特に多人数が職務を分担勤務する病院の薬局においては右の義務は一段厳格な規律を要請されることころであるのに被告人はこれを怠り其の製剤した前記三%ヌペルカインを同時製剤の葡萄糖注射液(両者は共に無色透明で外観上これを識別出来ない)と共に同型同大の一〇〇C.C.入コルベン容器に詰めて同様の封緘を為し且つ薬事法第三十五条の要求に違反して葡萄糖注射液に施したと同様の青枠白地の用紙に青インクをもつて「三%ヌペルカイン」と記入したのみの標示紙を容器の右同様部位に貼付した上滅菌の為め右葡萄糖注射液一〇〇C.C.入コルベン容器もろとも同日午後八時過頃から翌二日朝まで同一の滅菌器に混入存置した為め同朝九時三十分頃薬剤科勤務の事務局上司である被告人等薬剤師の業務を補助し各科看護婦に対する葡萄糖などの注射液引渡の事務を担当していたb被告が其の事務遂行に必要な葡萄糖注射液の容器を求めて右滅菌器の中を窺い在中の一〇〇C.C.入コルくベン容器を全部葡萄糖注射液と信じたため一括これを取り出して普通薬を貯蔵する製剤室薬品棚に納めもつて右ヌペルカイン入容器を他薬の葡萄糖注射液の容器などと共に混蔵せしめるに至つたのであるが、被告人は右滅菌器に他薬と混入してヌペルカインの三%溶液を滅菌して置いたことを不注意にも忘却しており右bの行為を現認しながら同人に対しその労を謝するのみで何ら右劇薬が他薬と混在して陳列せらること特に容器、標紙、封緘、及び内容液の外観が全く同一である葡萄糖液と混在することの危険に想到することなく漫然b被告の右過失行為を看却すると共に右ヌペルカイン容器を所定の劇薬格納場所に蔵置する措置を忘失し、因つてb被告において右ヌペルカイン容器を葡萄糖注射液と誤信したまま同日午前病棟看護婦gに対しこれを葡萄糖注射薬として交付した為めgもこれを葡萄糖注射液と誤信して何ら劇薬ヌペルカインを必要とせず又その取扱の例のない内科病棟処置室に持ち運び看護婦等により注射液の充薬などに共用せられる同室処置台の上に置いたので、更にその外観により同様これを葡萄糖注射液と誤認したc被告は二〇C.C.注射器三本に詰めてその内の二本を看護婦lと共に一本宛携行して病棟内受持病室に到り各自入院患者hとiに対しその静脈血管内に注射しこれが為め右両名を同日午後一時十五分頃ヌペルカイン中毒により死に致したのであり、該中毒死は被告人の前記諸般の業務上の注意義務違反の過失行為がその後者等の過失と連結して惹起したものである。
第二、 被告人bは右国立d病院薬剤科に事務員として勤務し、科長eの指揮監管の下に薬剤科所管業務の内薬剤に関する文書整理並びに主治医師の処方箋により各科看護婦から要求せられる薬品交付などの事務を担任していたものであるが前記日時薬剤科事務室において内科病棟看護婦gより葡萄糖注射液の交付を求めちれた際薬品を取扱う事務に従事する者としてその引渡す薬品が、要求を受けた薬品に相違ないかどうかを標示紙に記入せられた薬品名などにより確認し危害を未然に防止すべき義務があるに拘らず之を怠り容器、封緘、標止紙、内容液などの外観が同一でおることから漫然三%ヌペルカイン液一〇〇C.C.在中の容器コルベインを葡萄糖注射液在中のコルベインなるが如く軽信して右gに交付した結果前記経緯により看護婦c被告においてもこれを葡萄糖注射液でおるものと速断して注射器に詰め看護婦lと共に前記二名の患者の静脈血管内に注射し因つて同人等をヌペルカイン中毒により死に致したのであり、同中毒死は被告人の右業務上の注意義務違反の過失行為がその前者並に後者の前記過失と連結して惹起したものである。
(証拠)
以上の事実は検察官の各論旨に対する説示に挙示せられた証拠並に鑑定人mの死体解剖鑑定書を総合してこれを認むるに十分でおる。
(法律の適用)
被告人aの判示所為中三%ヌペルカイン容器の標示用紙の白地に赤枠、赤字をもつてその品名及「劇」の字を記載しなかつた点は薬事法第二条十二項、第三十五条第二項、第五十六条、薬事法施行規則第二十七条及その別表第一号罰金等臨時措置法第二条第一項に、業務上過失致死の点は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第一項にそれぞれ該当するところ右は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条により其の中重い薬事法第三十五条違反罪の刑に従い所定刑中懲役刑を選択し所定刑期範囲内で同被告人を懲役十月に処し諸般の犯情を憫諒し刑法第二十五条に因り右刑の執行を二年間猶予することにする。
次に被告人bの判示所為は刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ所定刑中罰金刑を選択し所定罰金額の範囲内で同被告人を罰金三千円に処し同罰金不完納の場合の労役場留置期間を刑法第十八条に従い主文の通り定める。
尚お国選弁護人荒谷昇に支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被告人両名の平等負担とする。
尚お被告人aに対する本件公訴事実中薬事法第三十九条違反の点はその犯罪の証明がないこと前記検察官論旨第二点に対する判断において示した通りであるから同事実については同被告人は無罪であるが、右訴因は同被告人に対するその余の事実と一所為数法の関係で起訴せられたものであるから主文において特に無罪の言渡をしない。
そこで主文の通り判決する。
(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)
pdf 165KB BC59630F358A5BA449256A850030D277.pdf
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=03&hanreiNo=24920&hanreiKbn=02
高裁判例
事件番号 昭和27う29
事件名 薬事法違反竝びに業務上過失致死被告事件
裁判年月日 昭和27年06月13日
裁判所名・部 名古屋高等裁判所 金沢支部 刑事部
結果 破棄自判
高裁判例集登載巻・号・頁 第5巻9号1432頁
原審裁判所名
原審事件番号
判示事項
一、 上司の指揮監督と薬事法上の義務
二、 減菌器に劇薬を他薬と混在して、滅菌する行為と薬事法の貯蔵
三、 相牽連する複数の過失行為と因果関係
四、 看護婦による静脈注射と業務上の過失致死
五、 利害相反する共同被告人に対する単一私選弁護人の訴訟行為
裁判要旨
一、 薬剤師として薬事法の規定を遵守すべき義務のある者は、法規の認める範囲内において上司の指揮監督に服すベきで、上司の指揮または慣行があることを理由として薬事法所定の義務を免れることはできない。
二、 滅菌処理の目的で、劇薬ヌペルカイン在中のコルペンと葡萄糖注射液在中のコルペンを同一滅菌器に入れて存置したのは、薬事法三九条の貯蔵に該当しない。
三、 Aの過失行為とBの過失行為との間に甲の行為が介在した場合、甲の行為が前者の過失行為を補足し是正するに足るものでなくその発展の危険を増大せしめるものであるときは、Aは過失の責を免れることはできない。
四、 看護婦が医師の指示により静脈注射をすることは、刑法第二一一条の業務に該当する。
五、 共同被告人に対する単一私選弁護人が、各被告人相互の間に利害相反する主張または立証をしても、これがため不利益を受ける被告人のため弁護人を付さないで公判手続を続行したことになるものではない。
参考 保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
当時、看護婦は業務上過失致死で起訴された。検察または弁護側が「点滴(静脈内 注射)が看護婦の業務であれば業務上失致死になるが、業務でなければ業務上過失致死罪にはならない」のかどうかと考えたようで ( 弁護士と伝わっている )、検察から福井県知事へ照会、福井県知事は厚生省に「点滴は看護婦の業務か」と質問状を送った。これへの局長名の回答は、「静脈注射は高度な手技であり、医師がすべきものであるから看護婦の『業務』ではない」とし、「静脈注射は医師が行うべきものである」という局長通達を出した。
福井地裁、名古屋高裁で行われた裁判では、保健婦助産婦看護婦法や看護学校の教育課程なども検討された結果「看護婦の業務である」とされ、この看護婦は業務上過失致死の罪を問われ、刑は確定した。
○保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
(昭和二六年九月一五日)(医収第五一七号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長回答)
標記について福井県知事よりの照会(別紙甲号)に対し別紙乙号の通り回答したから今後は関係団体とも協力の上回答の趣旨の徹底に努め、これが励行せられるよう御指導願いたい。
〔別紙甲号〕
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈について照会標記について今般福井地方検察庁から照会がありましたので、之が解釈の正確を期するため貴省の御意見伺い度御繁忙中恐れ入りますが左記事項速急御回示願いたく御照会します。
記
一 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に於いては、「保健婦、助産婦、看護婦または准看護婦は主治の医師または歯科医師の指示があった場合の外診療機械を使用し、医薬品を 授与しまたは医薬品について指示をなし、その他医師若しくは歯科医師が行うのでなければ 衛生上危害を生ずる虞のある行為をしてはならない。」と規定してあるが、右の行為は医師の指示による診療機械の使用と謂い得るか。
一 看護婦が医師の処方箋に基いて患者にブドウ糖の静脈注射をなすこと(医師は現場に居合わさず。)
〔別紙乙号〕
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
八月二十九日医第一四八一号をもって照会のあった標記の件については別紙写の福井地方検察庁検事宛回答により御諒承の上今後関係団体とも協力し回答の趣旨の周知徹底に努めこれが励行せられるよう御指導願いたい。
(別紙写)
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
(昭和二六年九月一五日 医収第五一七号)
(福井地方検察庁検事あて厚生省医務局長回答)
八月二十八日日記第一○二一号をもって照会のあった標記について左記の通り回答する。
記
看護婦の業務内容は保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年七月三十日法律第二百三号。改正昭和二十六年四月十四日法律第百四十七号。以下法と略称する。)第五条に規定する通り傷病者若しくじ.ょ.く.婦に対する療養上の世話と医師又は歯科医師の行う診療の補助とである。
法第三十七条の規定は、法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内においても、特定の業務については、医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであることを規定しているものである。
照会のあった静脈注射は、薬剤の血管注入による身体に及ぼす影響の甚大なること及び技術的に困難であること等の理由により医師又は歯科医師が自ら行うべきもので法第五条に規定する看護婦の業務の範囲を超えるものであると解する。従って静脈注射は法第三十七条の適用の範囲外の事項である。
しかし従来斯かる法の解釈が一般に徹底せず又医師数の不足等の理由により、大部分の病院等においては医師又は歯科医師の指示により看護婦が静脈注射を行っていたのが実情であり、今直ちに全般的に法の解釈通りの実行を期待することは困難な事情もあるので、当局としては今後漸次改善するよう指導する方針であるから、貴庁においても事案の処理にあたっては十分これらの事情を斟酌願いたい。
○三重県知事あて厚生省医務局長回答
(昭和二六年一一月五日)(医収第六一六号)照会
最近国立鯖江病院での注射禍事件が八月二十六日の毎日新聞および医薬通信第二六六号、その他関係刊行物等で論議され、特に看護婦は静脈注射を禁止されているかのように論ぜられているが、もし静脈注射が看護婦に禁止されている行為であるとすれば、これを行った場合は当然医師法第十七条に抵触することとなり、保健婦助産婦看護婦法第三十七条との関係が曖昧となると思われ指導上聊か疑義があるので何分の御指示を煩わしたい。
なお前記保、助、看法第三十七条にいう医師の指示の範囲は文書であると口答であると問わず医師が看護婦に対して意思表示をすればよく、また指示した事項が実行される間現場で推移を目撃している必要はないものと考えるが、この解釈も併せて御指示を御願いする。
回答
去る九月十二日衛医第三、一二五号をもって貴県衛生部長から照会のあった右のことについては、左記の通り回答する。
記
1 静脈注射は、本来医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって保健婦助産婦看護婦法第五条に規定する看護婦の業務の範囲外であり、従って、看護婦が静脈注射を業として行った場合は、医師法第十七条に抵触するものと解する。但し、実際の指導取締に当たっては、本年九月十五日医収第五一七号通牒末項の趣旨によられたい。
なお、保健婦助産婦看護婦法第三十七条の規定は、同法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内においても特定の業務については、医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであることを規定しているものである。
2 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に規定する指示とは、必ずしも文書によることを要しないが、如何なる程度の指示を同条による指示と解すべきかは、具体的な場合について個々に判断する外はない。
3 なお本件については、本年九月十五日医収第五一七号(保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について)通牒を参照されたい。
参考 看護師等による静脈注射の実施について
上記、昭和 26 年の厚生省局長通達は、これによって取り消し、変更されました。http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/141004-a.pdf
医政発第 0930002 号
平成 14 年 9 月 30 日
各都道府県知事殿
厚生労働省医政局長
看護師等による静脈注射の実施について
医政発第0930002 号
平成14年9月30日
各都道府県知事殿
厚生労働省医政局長
看護師等による静脈注射の実施について
標記については、これまで、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)により、静脈注射は、医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条に規定する看護師の業務の範囲を超えるものであるとしてきたところであるが、今般、平成14年9月6日に取りまとめられた「新たな看護のあり方に関する検討会」中間まとめの趣旨を踏まえ、下記のとおり取り扱うこととしたので、貴職におかれては、貴管下保健所設置市、特別区、医療機関、関係団体等に対して周知方お願いいたしたい。
なお、これに伴い、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)及び同通知(昭和26年11月5日付け医収第616号)は、廃止する。
記
1 医師又は歯科医師の指示の下に保健師、助産師、看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)が行う静脈注射は、保健師助産師看護師法第5条に規定する診療の補助行為の範疇として取り扱うものとする。
2 ただし、薬剤の血管注入による身体への影響が大きいことに変わりはないため、医師又は歯科医師の指示に基づいて、看護師等が静脈注射を安全に実施できるよう、医療機関及び看護師等学校養成所に対して、次のような対応について周知方お願いいたしたい。
(1)医療機関においては、看護師等を対象にした研修を実施するとともに、静脈注射の実施等に関して、施設内基準や看護手順の作成・見直しを行い、また個々の看護師等の能力を踏まえた適切な業務分担を行うこと。
(2)看護師等学校養成所においては、薬理作用、静脈注射に関する知識
・技術、感染・安全対策などの教育を見直し、必要に応じて強化すること。